2018年は、モナドらしくファッションとスペインに関係した映画「マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年(Manolo: The Boy Who Made Shoes for Lizards)」で始まり、最後はシチリア島の美しい映像が心に残るイタリア映画「シシリアン・ゴースト・ストーリー(Sicilian Ghost Story)」で終わる、合計73本の映画(一覧はこちら)をご紹介しました。
今年は例年より10本ほど多くご紹介したことになりますが、その中から厳正なる審査の結果、決定した今年のベスト5と各賞の発表です♪♪(2017年版はこちら)
栄えある1位に輝いたのは、スペイン・カタルーニャ地方が舞台の映画「悲しみに、こんにちは(Estiu 1993、英題はSummer 1993)」です! 主人公の6歳の少女フリダの演技が素晴らしく、ブログにも書いたとおり、最後のシーンでとどめを刺されてしまう映画です。いま思い返しても、じわっとこみ上げてくるものがあります。
振り返ってみると、今年は、この他にも「フロリダ・プロジェクト(The Florida Project)」や「万引き家族(Shoplifters)」など子役の演技が光った映画が目立っていた気がします。
第2位は、「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル(I, Tonya)」。なぜ今さらトーニャ・ハーディング?と半信半疑で観た映画でしたが、アメリカらしい独立独歩を地で行く半生が面白すぎて…。
リボンやフリルで飾りまくった手製の衣装もヘビメタの選曲もまるでセンス無しだし、ヘビースモーカーで食べるものも不健康でフィギュアスケートのスノッブな世界とはかけ離れている上に、毒母やろくでなしの夫からのDVもあって人生が無茶苦茶なのに、持ち前のド根性でのし上がっていく逞しさ。トーニャ役のマーゴット・ロビー(Margot Robbie)はもちろん、アカデミー賞の助演女優賞に輝いた母親ラヴォナ役のアリソン・ジャネイ(Allison Janney)の熱演も一見の価値ありです。
第3位は、映像、音楽、台詞、すべてに酔いしれる「君の名前で僕を呼んで(Call Me by Your Name)」です。
脚本がジェームズ・アイヴォリー(James Ivory)、監督がルカ・グァダニーノ (Luca Guadagnino)、役者がティモシー・シャラメ(Timothée Chalamet)とアーミー・ハマー(Armie Hammer)というこの上ない組み合わせに、スフィアン・スティーヴンス(Sufjan Stevens )の音楽が絡み、北イタリアの美しい光をサヨムプー・ムックディプローム(Sayombhu Mukdeeprom)のカメラが捕らえます。上質さを知る映画です。
第4位はチリ映画の「ナチュラルウーマン(Una Mujer Fantastica)」
突然逝ってしまった恋人への愛の強さで、性的マイノリティという弱い立場を乗り越えていく主人公。どんなに精神的にうちのめされても、歌を拠り所に生き抜く姿が実生活でもトランスジェンダーとして暮らしているダニエラ・ベガ(Daniela Vega)と重なります。セバスティアン・レリオ(Sebastián Lelio)監督の組み立てのうまさも相まって、ロッカールームでのワンシーンは忘れられません。
第5位は女優グレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)の監督デビュー作「レディ・バード(Lady Bird)」です。
監督自身の体験を下敷きにしているという本作は、今の自分と理想の自分のギャップに愕然として、ジタバタともがいて、親や友人とぶつかってしまう、誰もが通り過ぎる10代を、素晴らしいキャスティングとひねりのある脚本で描いています。次作は「若草物語」らしいのですが、どのような仕上がりになるのか楽しみです。
続いては各賞の発表です♪
★BEST 女優賞
都会に出たくて仕方のない田舎の10代をいきいきと演じた「レディ・バード(Lady Bird)」のシアーシャ・ローナン(Saoirse Ronan)、アイルランドの小さな村で社会的・宗教的な圧力によって精神が壊れていく女性を繊細かつ力強く演じた「ローズの秘密の頁(The Secret Scripture)」のルーニー・マーラ(Rooney Mara)、「アバウト・レイ 16歳の決断(3 Generations)」でトランスジェンダー役で新境地を拓き、「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」で小悪魔的な魅力を振りまき、「メアリーの総て(Mary Shelley)」で “私の選択が私を創った” という名セリフを残したエル・ファニング(Elle Fanning)といった並みいる候補者を押しのけて、堂々のBEST女優賞に輝いたのは、「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル(I, Tonya)」のマーゴット・ロビー(Margot Robbie)。外見はまったく似ていませんが、お金のかかるアッパーミドルのスポーツに殴り込みをかける労働者階級のアスリート役を渾身の演技で見せてくれました。
★BEST 男優賞
「君の名前で僕を呼んで(Call Me by Your Name)」で世界中の女子のみならず、男子も虜にしたであろうティモシー・シャラメ(Timothée Chalamet)、「30年後の同窓会(Last Flag Flying)」では戦争で息子を失った父親、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ(Battle of the Sexes)」では女性蔑視のテニスプレーヤーと役の幅の広さには毎回驚かされるベテラン俳優のスティーブ・カレル(Steve Carell)、「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)」でルックスだけでなく、フレディ・マーキュリーの所作や精神性までも見事に演じきったラミ・マレック(Rami Malek)が候補に挙がり、ラミ・マレックは年末に改めて観に行って(いまだ満席でした)ディテイルまで素晴らしかったので悩みに悩みましたが、BEST男優賞はやはりこの人、「ビューティフル・デイ(You Were Never Really Here)」のホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)。PTSDに苦しむ元軍人といった難しい役どころはこの人以外には考えられません。
★特別審査員賞
「30年後の同窓会(Last Flag Flying)」
「ビフォア・ミッドナイト(Before Midnight)」「6才のボクが、大人になるまで。(Boyhood)」などリチャード・リンクレイター(Richard Linklater)の作品は数多く観てきましたが、本当にうまい監督ですよね。同名の小説を下敷きにしているとはいえ、監督自身も脚本にかかわり、12年間温め続けただけのことはあります。戦闘シーンがなくても反戦映画が作れるという好例です。
「ビッグ・シック(The Big Sick)」
こちらも脚本が素晴らしい映画です。ふんだんに笑いを散りばめたロマンティック・コメディですが、移民ならではのカルチャーギャップや親子間のジェネレーションギャップをうまく取り込んで、見応えのある作品に仕上げています。何も考えずリラックスして観るも良し、いろいろ考えながら観るも良しという、人それぞれの楽しみ方ができる映画です。
「カルメン&ロラ(Carmen y Lola)」
今年のラテンビート映画祭で上映された映画です。マドリード近郊のヒターノ(ジプシー)のコミュニティを舞台に、古い慣習にとらわれた閉鎖的な環境から抜け出そうとする少女を描きます。物語そのものも面白い作品ですが、垣間見ることのできるヒターノのカルチャーも興味深いものでした。ぜひ一般上映して欲しいと思います。
「バトル・オブ・ザ・セクシーズ(Battle of the Sexes)」
今の世相にぴったりのテーマでの映画。子どものころ、漫画「エースをねらえ」を愛読していたのですが、なぜ「お蝶夫人」が10代なのに「夫人」と呼ばれていたのか、この映画を観て今更ながら気付きました。エマ・ストーン(Emma Stone)とスティーブ・カレル(Steve Carell)の丁々発止のやり合いが楽しいですね。
「パッドマン 5億人の女性を救った男(Padman)」
本作も今の世相に合った映画です。インドの女性にサニタリーパッド(生理用ナプキン)を普及させようと奮闘する男性を描いた作品。「わたしは、ダニエル・ブレイク(I, Daniel Blake)」でも触れていたように貧しい女性にとって大きな問題であり、こういう映画を通じてもっとオープンに語られるようになれば良いと思います。
★BEST オシャレ映画賞
久しぶりにルパート・エヴェレット(Rupert Everett)を観た「マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年(Manolo: The Boy Who Made Shoes for Lizards)」、ダニエル・デイ=ルイスの引退作となった「ファントム・スレッド(Phantom Thread)」、メットガラのドレス姿やカルティエのゴージャスなネックレスが見所の「オーシャンズ8(Ocean’s Eight)」もありましたが、「ダリダ〜あまい囁き〜(DALIDA)」のダリダのファッションは素敵です。
ステージ衣装のみならず、普段のオシャレも、50年代から80年代へと時代の移り変わりを反映していて楽しめます。
★BEST ミュージック賞
ド真ん中の直球ですが、「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)」で決まりでしょう。
他には、キューバの魅力あふれる「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス(Buena Vista Social Club: Adios)」や、アルノー・レボティーニ(Arnaud Rebotini)がリミックスした"Smalltown Boy"(→Youtube)が心に響く「BPM ビート・パー・ミニット(120 battements par minute)」、スフィアン・スティーヴンス(Sufjan Stevens )の“Mystery of Love” と“Visions of Gideon”で雰囲気を盛り上げた「君の名前で僕を呼んで(Call Me by Your Name)」がありました。そして、「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル(I, Tonya)」では使われなかったものの、同じくスフィアン・スティーヴンス(Sufjan Stevens )がトーニャ・ハーディングのために作った歌(→Youtube)もしばらく頭の中をリフレインしています。
★今年はやっぱりキノコで賞
何といってもキノコの年でしたね。といっても2作だけですが、「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」も「ファントム・スレッド(Phantom Thread)」もキノコを使って男性を意のままにするというアイデアが一緒で、またシリアスなドラマに見えて実はコメディという作りも共通していました。検討を重ねた結果、従順なように見えて実は!というアルマより、純粋無垢な瞳でキノコを提案するマリーの方が笑えるということで「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」に決定です。(写真はGanbara jatetxeaで食べたセップ茸のプランチャ)
以上、モナドが選ぶ2018年のベスト映画でした。
今年もモナドのブログをお読みいただき、ありがとうございました。来年も年明けから観たい映画が目白押しです。最近は劇場公開されるのか心配になる話題作があったりしますが、やはり映画は映画館でどっぷりと映画の世界に浸りたいと思います。2018年もどうぞよろしくおつきあいください。
[仕入れ担当]