映画「マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年(Manolo: The Boy Who Made Shoes for Lizards)」

00 "Give a girl the right shoes, and she can conquer the world(女の子はぴったりの靴を手に入れたら世界だって征服できる)”とマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)が言ったそうですが、靴好きの女性なら思わず頷いてしまう言葉ですよね。そんな女性たちの憬れのブランド、マノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)のデザイナーに迫ったドキュメンタリーです。

後に世界的な靴デザイナーとなるマニュエル(愛称:マノロ)はスペインのカナリア諸島(ラ・パルマ島)で生まれ育ちました。このアフリカにほど近く、自然に恵まれた環境が彼の感性に大きな影響を与えていることは間違いありません。映画のタイトルに含まれている「トカゲの靴」というのは、少年時代のマノロがチョコレートの包み紙でトカゲの靴を作ったというエピソードに由来しています。

モナド取り扱いデザイナーのヘレナ・ローナー(Helena Rohner)もカナリア諸島(グラン・カナリア島)出身で、彼女が帰省するたびに instagram が島の風景で埋まるのですが、本当に美しい場所です。こういう環境で育つと、光の見え方も違ってくるだろうな、と思わせるうっとりするような景色で、以前から訪れてみたいと思いつつ、残念ながらまだ行ったことはありません。

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話は戻ってマノロ・ブラニクです。スイスの寄宿学校を経てジュネーヴ大学を卒業したマノロは、パリに移ってアート系の学校に通います。その時代に古着屋で働いたことがファッションビジネスの世界に足を踏み入れるきっかけになります。

1968年には、ファッションの中心になりつつあったロンドンに転居。ブティックのバイヤーをしながらイタリアンヴォーグの男性版に関わり、1970年にニューヨークで当時のU.S.ヴォーグの編集長、ダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)と出会います。彼女に自分のファッション・ポートフォリオを見せた際に靴を作るように助言され、シューズデザイナーの道に進むことになります。

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1972年にオジー・クラークのファッションショー向けの靴をデザインしたことを皮切りに、ファッションデザイナーからの依頼が増え、働いていたブティックを買い取って自分の店を開きます。U.K.ヴォーグのファッションエディターだったグレース・コディントン(Grace Coddington)の目に留まり、ほぼ毎号、掲載されたことでどんどん知名度が上がって1977年には米国に進出、ブルーミングデールズで扱われてさらに知名度を上げていきます。

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この映画では、パリ時代からの友人であるパロマ・ピカソ(Paloma Picasso)や、米国での成功を後押ししたU.S.ヴォーグのアナ・ウィンター(Anna Wintour)、映画「マリー・アントワネット」で彼の靴を採用したソフィア・コッポラ(Sofia Coppola)、2016年からマノロとコラボレーションしているリアーナ(Rihanna)など、さまざまなセレブ女性がマノロについて語っていきますが、最も多く登場するのがデビュー当時からマノロの靴を撮り続けている写真家デビッド・ベイリー(David Bailey)と、U.S.ヴォーグの名物編集者アンドレ・レオン・タリー(André Leon Talley)でしょう。

ちなみに、アンドレ・レオン・タリーを見出したのはダイアナ・ヴリーランドで、彼がウォーホルのInterview誌で働いていた1974年、メトロポリタン美術館・服飾研究所のコンサルタントだったヴリーランドに出会ったことがファッション雑誌の世界に入るきっかけになっています。つまり、マノロ・ブラニクもアンドレ・レオン・タリーもダイアナ・ヴリーランドの教え子のような位置付けなのです。

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ついでに記せばメトロポリタンの服飾研究所、現在はヴリーランドの次の次のU.S.ヴォーグ編集長であるアナ・ウィンターが主導していて、これについて映画「メットガラ」で詳しく描かれています。また、アナ・ウィンターやアンドレ・レオン・タリー、グレース・コディントンについては、映画「ファッションが教えてくれること」をご覧になるとよくわかります。

本作の話に戻ると、こういったファッション業界の有名人たちと、プラド美術館のマヌエラ・メナ(Manuela Mena)や歴史学者のメアリー・ビアード(Mary Beard)といった専門家の証言を交えながら、本人のインタビューと生い立ちを描いた再現映像でマノロ・ブラニクの人となりを見せていきます。写真家セシル・ビートン(Cecil Beaton)への憧憬、画家ゴヤ(Francisco de Goya)から受けた影響など興味深い話がたくさん出てくるのですが、何よりも感じるのがマノロのチャーミングさ。

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世界的ブランドになった今でもミラノの工房を訪れ、職人たちと一緒に新作の試作品作りに励むマノロですが、あのキャラクターだからこそ職人からも愛されているのだと映画を観ただけでわかります。

また、食べ物も洗練されたものが好きなようで、“チップスなんか食べない、ビネガーもイヤ”と、フィッシュアンドチップスを思い切り否定するシーンが出てくるのですが、すぐあとで“体質に合わないだけ、アレルギーなんだ”と緩いフォローを入れるあたり、気遣いの人なんだなぁと気付かされます。

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それから、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)との交流。映画の中で二人は似たタイプだと言われていましたが、彼のコレクションのためにデザインしたミュールのエピソードなど、気脈が通じ合っているのだろうなぁという印象です。それにしてもジョン・ガリアーノ、「メットガラ」のときも思いましたが、マノロ・ブラニクに勝るとも劣らない愛嬌のある人ですね。

監督を務めたマイケル・ロバーツ(Michael Roberts)は、イラストも描くファッションジャーナリストで、マノロとは45年来の友人だそう。以前、本作にも登場するルパート・エヴェレット(Rupert Everett)を主役に配し、タンゴをテーマにしたマノロ・ブラニクのショートムービー「Jealousy! A film by Michael Roberts」(→Youtube)を撮っています。4分半の短い映像ですのでお時間があれば是非ご覧になってみてください。

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公式サイト
マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年

[仕入れ担当]