映画「キングスマン:ゴールデン・サークル(Kingsman: The Golden Circle)」

00 2015年に日本公開された「キングスマン」の続編です。前作でハリー(コードネーム:ガラハッド)が撃ち殺されてしまいましたので、コリン・ファース(Colin Firth)の紳士然とした姿なくこのドラマは成り立たないだろうと思っていたら、続編が作られたばかりか、ハリーも片目を失っただけで復活していました。既に3作目の企画も進んでいるようで、なんとも商魂たくましいマシュー・ヴォーン(Matthew Vaughn)監督です。奥さんが元スーパーモデルですので出費も嵩むのでしょう。

設定は前作と同じで、ロンドンのサヴィルローにある紳士服店“キングスマン”を拠点とする秘密組織と巨悪が闘うお話。今回の敵は世界の麻薬ネットワークを支配しているポピー(ケシのことですね)という女性で、麻薬にウィルスを仕込んで世界中の薬物使用者に感染させ、その解毒剤が欲しければ自分と交渉するように米国大統領に迫ります。

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この大統領というのが独善的な単細胞で、さりげなく世相を反映させているのかも知れませんが、何となくツメが甘い感じ。これに限らず全体的に仕掛けが空回りしていて、ユーモアのセンスも今ひとつです。また前作はエグジーの成長譚としての物語がありましたが、今回はドタバタの闘いが続くのみ。当初3時間40分あったものを2時間20分まで削ったそうですが、傍系のストーリーを全部カットして90分程度に仕上げれば良かったのに、というのが率直な感想です。

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物語はハリーなき後、コードネーム:ガラハッドを引き継いだエグジーが紳士服店“キングスマン”から出てくる場面でスタート。前作でキングスマンへ加わるための試験に落ちたチャーリーが、敵側の刺客としてエグジーを襲います。ここからプリンスのLet’s Go Crazyをバックに激しいカーチェイスが展開するのですが、これが本作で一番の見どころかも知れません。水中で使える車というのはきっと007シリーズへのオマージュですね。

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逃げ延びたエグジーが自分の部屋にたどり着くと、そこには美しいガールフレンドが待っています。前作を観た人はロキシーをイメージすると思いますが、これがなんとスウェーデン王女のプリンセス・ティルデ。キングスマンの規則では私生活上の繋がりを持つことを禁じていますので、ルールからの逸脱を示したのだと思いますが、相手の高貴すぎる設定もその後の展開もあまりに唐突です。個人的には要らない傍系ストーリーの一つだと思いました。

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その後、プリンセスの両親と会食をしている間に、紳士服店“キングスマン”やロキシーの自宅が空爆され、組織は壊滅的な状態になります。生き延びたのはエグジーとマーリンだけ。非常時のキーを使って、ケンタッキー州のウィスキー醸造所、ステイツマンとの繋がりが見つかり、二人は米国に飛びます。

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もちろんステイツマンというのも秘密組織の隠れ蓑で、彼らはコードネーム:テキーラと一戦交えますが、誤解が解けて仲間だとわかります。その組織に保護されていたのが、片目と脳を損傷したハリー。記憶を失っていて当初は二人のことを認識できませんが、エグジーのある思いつきでショックを与えて記憶を蘇らせ、片目で復帰します。

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このステイツマン、南部のバーボン醸造所に基地を置くだけあって非常にアメリカン。組織のメンバーもテキーラをチャニング・テイタム(Channing Tatum)が演じている他、同僚の女性ジンジャーをハル・ベリー(Halle Berry)、同じく同僚ウィスキーをペドロ・パスカル(Pedro Pascal)、彼らの上司シャンペン(愛称チャンプ)をジェフ・ブリッジス(Jeff Bridges)が演じていて、英国のキングスマンと米国のステイツマンというコントラストを際立たせます。

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対する敵、ジュリアン・ムーア(Julianne Moore)演じるポピーも強烈なアメリカ志向で、カンボジア奥地にある隠れ家は、敷地内にダイナーやシアター、ボーリング場を備え、それらを賑やかなネオンで飾った50’sスタイル。最初に登場するシーンでは、ダイナーで挽き立てミンチ肉を使ったスペシャルハンバーガーを調理するのですが、詳細は観てのお楽しみです。

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その後、エグジーがチャーリーのガールフレンドに発信器を仕掛け、彼女を追ってハリーたちとスイスに飛んでポピーの拠点の一つを急襲します。そこでもケーブルカーのシーンなど007シリーズへのオマージュを散りばめながら次々と激しいアクションをこなし、最終的にポピーの隠れ家にたどり着いて、再びチャーリーと闘うことになります。

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前作ではスペシャルゲスト的にマーク・ハミルが誘拐されていましたが、本作ではエルトン・ジョン(Elton John)が囚われていて、Saturday Night’s Alright (for Fighting)を歌詞を入れ替えて歌ってみせたり、ポピーの一味と闘ったり、いろいろと見せ場を作ります。彼の登場場面も要らない傍系ストーリーの一つだと思いますが、映画の賑やかしとしてはそれなりに効いていたような気もします。

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主な登場人物としては、エグジー役のタロン・エガートン(Taron Egerton)、ハリー役のコリン・ファース、マーリン役のマーク・ストロング(Mark Strong)、ロキシー役のソフィ・クックソン(Sophie Cookson)、チャーリー役のエドワード・ホルクロフト(Edward Holcroft)は前作と同じですが、新たなアーサー役でマイケル・ガンボン(Michael Gambon)が出ています。「英国王のスピーチ」でコリン・ファースと共演していましたよね。エグジーのガールフレンド、プリンセス・ティルデ役は「サーミの血」で日本でも知られるようになったスウェーデン人女優のハンナ・アルストロム(Hanna Alström)。

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また、米国大統領役のブルース・グリーンウッド(Bruce Greenwood)は、グザヴィエ・ドラン主演の「エレファント・ソング」でグリーン院長を演じていた人。またその補佐官役は「オレンジと太陽」「博士と彼女のセオリー」などの名優エミリー・ワトソン(Emily Watson)で、ちょっとオーバースペックな印象もありますが、最後で強い女性の時代を示す役割を担い、かろうじてバランスを保ちます。

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ということで、ひと言でいえば、出演者が豪華なだけで、ひねりのない一本調子な作品です。マーベル映画などがお好きな方にはお勧めかも知れません。

公式サイト
キングスマン:ゴールデン・サークルKingsman: The Golden Circle

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