映画「オレンジと太陽(Oranges and Sunshine)」

Sunshine この映画で初めてHome Childrenという言葉を知りました。家庭的な温もりを持った言葉と勘違いしそうですが、1869年から英国で行われてきた児童移民の施策だそうです。

これによって10万人を超える英国の子どもたちが、カナダをはじめ、豪州、ニュージーランド、南アフリカに送られました。対象は、主に貧困等の理由で宗教施設に預けられた子どもたちですが、これが1970年代まで続いていたというのですから驚きます。

映画「オレンジと太陽」の製作によって、この児童移民のことが広く知られるようになり、2009年には豪州のラッド首相が(ABC News)、2010年には英国のブラウン首相が(BBC News)が公式に謝罪しました。ちなみにカナダ政府は謝罪しない旨を表明(CBC News)しています。

映画は、実際に児童移民させられた人たちの支援活動をしているマーガレット・ハンフリーズ(Margaret Humphreys)の著作を下敷きにしたもので、彼女の活動の軌跡を追うように展開していきます。(彼女が活動してるChild Migrants Trustはこちら

偶然、児童移民の事実を知ったソーシャルワーカーのマーガレット。強制的に移民させられ、親の名前どころか自分の本名さえ知らなかった人たちのために、彼らの出自を調査する手伝いを始めます。

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その後、彼女を責任者とする正式のプロジェクトに格上げされ、豪州と英国を往き来しながら支援を拡大していくのですが、英国では子どもたちを送り出した宗教団体から批判され、豪州では移民を受け入れた修道院の関係者から脅迫を受けるなど、宗教的権威と闘いながらの活動です。

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また、娼婦の子どもだから、とか、子どもを捨てるような親だから、といった偏見。カズオ・イシグロが「わたしを離さないで」で描いたような、英国社会に根強く横たわるクラス意識が、そういった人たちの救済から目を背けさせます。

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それでも、児童移民させられた人たちから信頼を得られるようになり、また自らのアイデンティティを取り戻した人たちから感謝されながら、自分の家族に支えられ、移民させられた人たちの家族を探し続けます。Cat StevensのWild Worldがとても印象的に使われていて、耳に残りました。

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この映画は、ジム・ローチ(Jim Loach)監督のデビュー作。普通はこのような社会派映画を新人監督が撮っても注目されないと思いますが、彼の父親が「ルート・アイリッシュ」等のケン・ローチ(Ken Loach)ということで多くの人が関心を持ったのだと思います。これもまた、一種の家族の物語ですね。

そして主役のマーガレット・ハンフリーズを演じたのが、「奇跡の海」や「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」で知られるエミリー・ワトソン(Emily Watson)。本当に演技のうまい女優さんです。先日観た「戦火の馬」にも出ていましたが、演じる役柄によって雰囲気ががらっと変わり、今回はまるでドキュメンタリーを観ているかのようでした。

英国からの児童移民がなくなったとはいえ、今でも豪州は多くの移民を受け入れています。最近では、中国が英国を抜いて豪州への移民数で1位になったそうで(BBC News)、インドからの移民も増えているとのことですが、こういった移民政策に、英国が犯したような誤り(ラッド首相のいうところの“great evil”)が含まれていないことを祈るばかりです。

公式サイト
オレンジと太陽Oranges and SunshineAustralia

[仕入れ担当]