リチャード・リンクレイター(Richard Linklater)監督の最新作は、これまでとは一風変わったバディムービーです。それも中年男性3人が繰り広げるロードムービー。原題のメッセージ性を無視した脳天気な邦題がついていますが、決して「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」の30年後というわけではありません。ベトナムで一緒に戦った3人がある理由で再会し、彼らの会話を通じて米国と戦争の姿を描いていく作品です。
ある理由というのは息子の葬儀。イラクで戦死し、米国に送られた遺体がアーリントン墓地に埋葬されるので一緒に来て欲しいと、その1人が30年前の戦友に頼むのです。それぞれ違った人生を歩んできた3人が、21世紀の戦争をきっかけに往時の記憶を蘇らせていきます。
もちろんリンクレイター監督ですから、堅苦しかったり重苦しかったりする映画ではありません。また戦闘シーンもありません。「ビフォア・・・」シリーズや「6才のボクが、大人になるまで。」のように、軽妙な会話で笑わせながら、時折しんみりさせる作りになっています。
映画は、ちょっと気弱な印象のラリー(通称ドク)が、ぱっとしないバーに現れるシーンで始まります。時は2003年12月13日。サダム・フセインが米軍に拘束される直前です。バーの店主サルは常連客に向かって政府批判をしていて、入ってきた客が知り合いだと気付きませんが、ドクが名乗ったことで、30年前に19歳の海軍衛生兵(corpsman)だったラリー・シェパードの記憶が蘇ってきます。
その翌日、2人はドクの案内で教会に向かいます。そこで説教している黒人牧師を観てサルは驚愕。何とベトナムの荒くれ男ミューラーが聖職者になっていたのです。2人はミューラーの自宅に招かれ、彼の妻ルースから歓待を受けます。そこでドクが息子の死を打ち明け、葬儀への同行を頼みます。
ベトナムで彼らに何があったか、明確に示されることはありませんが、会話から伝わってくるのは、ドクがいちばん年下だということ、彼らが何か悪さをして、その罪を背負ったドクが懲戒除隊(BCD)になって収監されたこと、それ故に2人はドクに借りがあることです。ですから、突然現れたドクが我が儘な依頼をするのも、それほど不自然ではないようです。
ミューラーは脚を負傷して除隊になり、サルは再度ベトナムで戦って今も頭に金属が入っています。海軍刑務所に入れられたドクだけは五体満足で、後にその刑務所で職を得て息子をもうけていますので、誰がいちばん幸福だったのか、一概に言えないところがリンクレイター監督のうまさかも知れません。
アーリントン墓地経由でデラウェア州のドーバー空軍基地に向かった3人。星条旗をかけた棺がいくつか並んでいて、その一つがドクの息子のものです。お悔やみを言いに来た大佐にドクは“息子の顔が見たい”と要望します。大佐は“頭を撃たれたので見ない方が良い”と助言し、ミューラーも同意しますが、サルは“自分だったら見ておく”とドクの背中を押します。
結局、ドクは棺の中を見に行くのですが、残りの2人は、接遇してくれた兵士ワシントンと話すうちに海兵隊から伝えられた“敵の待ち伏せを受けて死亡した”という話がウソだと気付きます。続けてドクもそれを知ることになり、息子は軍の英雄としてアーリントン墓地に埋葬するのでなく、自宅に連れ帰り、近くの墓地に葬りたいと言い始めます。
そしてベトナム帰還兵3人と、付き添いのTDYを言いつけられた兵士ワシントンの4人による珍道中が始まります。いろいろと面白いのですが、中でも印象深かったのはウィルミントン駅からペンシルベニア駅までの列車内での会話。貨車で棺の見張りをしていたワシントンのところに3人が行って、いわばドクの息子の通夜のような状況になるのですが、そこでサルが主導して猥談が始まるのです。
くだらないといえば非常にくだらないのですが、ずっと生真面目さを漂わせていたドクも、声が裏返ってしまうほど笑い転げます。一人息子の棺の傍らで何より悲しいはずです。しかし、だからこそ、単純な下ネタがこれほどまでに可笑しいのでしょう。会話の運びが絶妙で、つられて笑うたびにドクの悲しみが染み入ってきます。
その後も携帯電話を買ってふざけあったり、悪さの償いに行って本当のことを言えなかったり、軍服での埋葬をやめるつもりだったものを翻意したり、小さなトピックを積み重ねながら米国の戦争について多面的な考え方を示していきます。
リンクレイター監督らしく、フラッシュバックで過去の出来事を説明したりしませんので、すべては登場人物の語りで伝えられます。それが、生々しい映像とは違った臨場感を生み出し、観客を映画の世界に引き込んでいくのでしょう。
ドクを演じたのは「フォックスキャッチャー」「マネー・ショート」と全く異なるキャラクターを好演してきたスティーヴ・カレル(Steve Carell)。本作の内気なドクと、次作「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」のボビーも対極にありますが、どう演じるか今から楽しみです。
サルを演じたブライアン・クランストン(Bryan Cranston)は、「ドライヴ」や「ゴジラ」にも出ていましたが、どちらかというとTVドラマ「ブレイキング・バッド」で有名でしょう。彼の剽軽で傷ついたキャラクターが本作の大きな支柱になっています。
そしてミューラーを演じたのは「君が生きた証」の楽器屋の役でいい味を出していたローレンス・フィッシュバーン(Laurence Fishburne)。彼と兵士ワシントン役のJ・クィントン・ジョンソン(J. Quinton Johnson)が黒人であることも、この映画の隠し味になっています。
隠し味といえば、リンクレイター監督ですから、音楽の使い方も巧みです。エミネムの“Without Me”で笑わせたかと思えば、リヴォン・ヘルムの“Wide River to Cross”やボブ・ディランの“Not Dark Yet”でしみじみさせます。複雑な感情を織り込んだ結末を見事に着地させるエンドロールはさすがとしか言いようがありません。
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30年後の同窓会(Last Flag Flying)
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