映画「フォックスキャッチャー(Foxcatcher)」

Fox0 米国きっての富豪、デュポン家の一員であるジョン・デュポン(John Eleuthère du Pont)と、ロサンゼルス五輪のレスリングで兄弟揃って金メダリストを獲得したデイヴ・シュルツ(David Schultz)、マーク・シュルツ(Mark Schultz)の3人を描いた実話ベースの作品です。

ジョン・デュポンを演じたスティーヴ・カレル(Steve Carell)がアカデミー賞の主演男優賞、デイヴを演じたマーク・ラファロ(Mark Ruffalo)が助演男優賞にノミネートされていて、そういった点からも注目を集めています。

物語は、困窮するマークを描くところからスタートです。冒頭の講演シーンに続いて手渡された謝礼はたったの20ドル。フードスタンプで得たハンバーガーで腹を満たし、家ではインスタント麺にトマトソースをかけただけの食事を摂る生活です。

オリンピックの覇者なのに、経済的に報われない現状にマークは苛立ちを隠しません。練習相手である兄のデイヴに八つ当たりし、人格者のデイブがそれを受け止めることで、なんとか収まっている様子です。

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そんな折、唐突にジョン・デュポンの豪邸に呼ばれます。母の好みで乗馬をやらされていたが、本当はレスリングをやりたかったというジョン。マークのスポンサーになり、ソウル五輪優勝を後押ししたいという申し出です。デイヴも一緒にということなので、帰って兄に相談しますが、家族があるデイヴは弟の誘いを断ります。

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ジョンのチーム、フォックスキャッチャーに加わったマークは、恵まれた環境でトレーニングし、当初は順調でした。しかし、次第に精神的な弱さが現れ、ジョンの影響でコカインに手を出したり、酒におぼれたりし始めます。それを見かねたジョンが再びデイブを誘い、最終的に彼もフォックスキャッチャーの一員になります。

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対外的なフォックスキャッチャーのコーチであるジョン。本物のコーチであり、マークのメンターであるデイブ。ソウル五輪の勝利を目指すマーク。危ういバランスで成り立っていた3人の関係は、ジョンがデイブを射殺するという悲劇で終わりを迎えます。そのあたりの微妙な心の揺れを丁寧にすくい取っていく映画です。

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アカデミー賞には上記2人の男優の他、ベネット・ミラー(Bennett Miller)監督も監督賞にノミーネートされているのですが、登場人物の内面にある不安や葛藤、それが生み出す場の空気を映像で表現する力は抜群だと思います。長編処女作「カポーティ」で今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマンに主演男優賞をもたらしたように、本作でも役者の力を100%引き出せたのではないでしょうか。

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とりわけ特殊メイクの付け鼻で難役に挑んだスティーヴ・カレル。ジョン・デュポンの屈折した自尊心と、そこはかとなく漂う狂気を完璧に表現していたと思います。ブラッドリー・クーパーやベネディクト・カンバーバッチといった有力候補と競うわけですが、アカデミー賞もありそうな気がします。

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そしてマーク・ラファロ。「キッズ・オールライト」や「はじまりのうた」でお馴染みの“軽薄そうに見えて実は誠実な人”という役柄とは正反対のシリアスな役を、体重を10Kg以上増やして演じきって、「キッズ・オールライト」に続く2度目の助演男優賞ノミネート、そろそろ大きな賞を貰っても良い頃合いかも知れません。

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マークを演じたチャニング・テイタム(Channing Tatum)も熱演していました。怒りに震えて鏡に頭突きするシーンは、脚本になかったものだそうで、それも本当に鏡を割って額に怪我までしたそうです。彼が醸し出していたホモセクシャルな雰囲気が、ジョンとマークの共依存的な関係をうまく表現していて上手いと思ったのですが、実在のマーク・シュルツはそういった描き方をした監督を批判しているようです。

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また音楽の使い方。ラジカセからデヴィッド・ボウイのFAMEが流れていて、ジョンが苛立ってスイッチを切るシーンがあるのですが、歌われている内容といい、煽るような歌い方といい、場面にぴったりはまっていて、とても良い選曲だと思いました。

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もちろん2人の女優、デイヴの妻を演じたシエナ・ミラー(Sienna Miller)と、ジョンの母親を演じたヴァネッサ・レッドグレイヴ(Vanessa Redgrave)も良かったと思います。とはいえ、出番の少なさもあって男優たちほどの存在感はありませんでした。やはり男の世界を描いた映画なのだと思います。

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公式サイト
フォックスキャッチャーFoxcatcher

[仕入れ担当]