ちょっと変わった構成の家族が織りなすコメディタッチのドラマです。大笑いしながら気軽に楽しめる映画ですが、随所に凝った演出がちりばめられていて、軽快な印象とは裏腹に、丹念に仕上げられた良作だと思います。
レズビアンのカップル、ニックとジュールは同じ精子提供者を父親とする子どもを1人ずつ産み、4人家族としてロサンゼルス郊外で暮らしています。その子どもたちも成長し、姉のジョニは18歳。父親のことを知っても良い年齢になり、弟レイザーの強い希望で精子バンクに問い合わせ、実の父親(biological father)と会ってみます。
1回だけ会う予定だったのですが、予想に反して印象の良い父親だったので、その後も連絡を取り合うようになり、そのことはすぐにニックとジュールの知るところに。結局、子どもだけで会うのは良くないと、家に招いて家族全員で顔を合わせることになります。4人家族として閉じていた世界に、異物である実の父親が入ってきたことで、今まで保たれていた微妙なバランスが崩れ始めて……というストーリー。
際どいテーマを扱った映画ですので、際どいシーンもあるのですが、最初から最後まで楽しく気持ちよく観賞できます。それはたぶん、脚本とキャスティングの良さゆえでしょう。特にキャスティングの素晴らしさは、登場人物全員が、はまり役といった印象。すべてがとても自然で、米国西海岸の爽やかな光に溶け込むかのような演技です。
ジュール役は、初めからからジュリアン・ムーア(Julianne Moore)を想定していたそうですが、やっぱり巧い役者さんですね。「シングルマン」のソブラニーをくゆらす退廃的な女性の役とは打って変わって、今回は自立しきれず揺らぐ女性の役をリアルに演じています。
ニック役のアネット・ベニング(Annette Bening)も、「愛する人」に引き続き、素晴らしい演技でした。当初、この役は「50歳の恋愛白書」のロビン・ライト(Robin Wright)が予定されていたそうですが、ジュリアン・ムーアとのコントラストでいえば、アネット・ベニングで正解だったと思います。そういえばジュリアン・ムーアは「50歳の恋愛白書」でもレズビアンの役でしたね。ちなみにジョニ役のミア・ワシコウスカ(Mia Wasikowska)は「アリス・イン・ワンダーランド」でアリス役をしていた少女です。
映画のタイトルはThe Whoの同名の曲からとったものとのこと。予告編に、本編では使われないマッドネス(Madness)の「Our House」を使うあたりからも伺えますが、全体を通して音楽へのこだわりに溢れた映画です。映画の重要なシーンで使われているジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)の「All I Want」もそうですが、David Bowieの曲が2曲使われていたり、レズビアンとして知られるUh Huh Herの曲が使れていたり……。最初のシーンでジュリアン・ムーアがエルヴィス・コステロのTシャツで登場しますが、こういうところにも監督の趣味が伺えます。
また、西海岸らしいオーガニック・ライフやカリフォルニアワインの銘柄にもこだわりを感じましたし、一つ一つのセリフも選び抜かれた言葉という感じがしました。たとえば、精子提供者役のマーク・ラファロ(Mark Ruffalo)の家の裏庭作りをするシーン。ジュールが造園コンセプトとして、fertilizeという言葉を使いますが、字幕で訳されていた「豊饒」という意味に「受精させる」という意味をかけているのだと思います。
こんな感じで丁寧に作り込まれた上質なコメディ映画、ゴールデンウィークにぴったりではないでしょうか。
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キッズ・オールライト(The Kids Are All Right)
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