映画「愛する人(Mother and Child)」

Mc1 昨日に引き続き、今回はラテンビート映画祭のプレミア上映作品「愛する人」です。

ロドリゴ・ガルシア(Rodrigo García)監督といえば「彼女を見ればわかること(Things You Can Tell Just by Looking at Her)」「美しい人(Nine Lives)」など、女性の心理を巧みに描く監督。父親であるガルシア・マルケス(García Márquez)のマジック・リアリズムとは対照的に、監督自らも語っている通り、緻密にリアリティを追求していく監督です。

上映前にエッセイストの安藤和津さんと映画監督の安藤モモ子さんの母娘対談があり、その中でモモ子さんが「以前の作品が美しいパッチワークなら、この作品は丁寧に織り上げられたタペストリー」と評していたのですが、まさにその喩えの通りの映画でした。

14歳で出産し、その赤ちゃんを手放さなければならなかったカレン。51歳になった今、母親の介護をしながら、病院で働いて暮らしていますが、いまだ娘への思いは消えず、母親との間にはわだかまりを感じています。好意を寄せてくる人に対しても心を開いて接することができません。
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養子に出されたカレンの娘、エリザベスは37歳になり、優秀な弁護士として活躍しつつも、やはり他人と深く関わることを拒んでいます。この母娘の物語に、夫婦の間に子どもができず、養子を貰う決断をしたルーシーの物語が繊細に絡み合い、感動的なラストシーンに結びついていきます。
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ロドリゴ・ガルシア監督らしいのは、カレンの家で通いの家政婦として働く女性とその娘、エリザベスの上司や屋上で出会う盲目の少女、ルーシーの母親や夫とその家族といった周囲の人々についても、その立場と心情が、とてもきめ細かく描かれていることです。

また、登場人物一人ひとりが抱えている欠落感、その欠落感と向かいあう姿にリアリティがあって、じわっと心に響いてきます。多くの女性が、登場人物の誰かと自分を重ね合わせながら観ると思いますが、人と人が接することの意味や価値をもう一度見つめ直したくなる、そんな映画です。
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カレンを演じたアネット・ベニング(Annette Bening)、エリザベスを演じたナオミ・ワッツ(Naomi Watts)の演技の素晴らしさは言うまでもなく、心の奥底に満たされぬ思いと諦念を抱えた母娘の関係が、ちょっとした表情からも伝わってきました。

安藤和津さんは(個人的なエピソードもあって)観ていて涙が止まらなかったとおっしゃっていましたが、ハッピーエンディングとは言えないながらも、希望を感じさせる終わり方も良かったと思います。2011年正月の劇場公開時にはぜひご覧になってみてください。
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公式サイト
愛する人Mother and Child

[仕入れ担当]