映画「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」

00_2 本作でカンヌ映画祭の監督賞に輝いたソフィア・コッポラ(Sofia Coppola)。女性監督の受賞は1961年のユリア・ソーンツェワ以来の史上2人目だそうです。女性の監督も大勢いるのに、ちょっとびっくりですね。ちなみにパルムドールを獲った女性監督は、今のところジェーン・カンピオン唯1人だそうで、これまたびっくりです。

SOMEWHERE」「ブリングリング」に続く今回はトーマス・カリナン(Thomas Cullinan)の1966年の小説の映画化。1971年に「白い肌の異常な夜」というタイトルで映画化されたそうですが、主演がクリント・イーストウッド、監督が「ダーティハリー」のドン・シーゲルだったということで、私は観ていませんが(この組み合わせでは永遠に観ないでしょうが)かなり趣きの違った仕上がりなのではないかと思います。

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物語の舞台は南北戦争時代末期のバージニア。負傷した北軍の兵士が南軍側の女性に救われ、全寮制女学校で匿われるというお話。北軍と南軍というそれぞれの立ち位置の違いに、兵士の男性的な価値観と女学校の女性的な価値観の違いを絡めて描いているところがこの物語の面白さだと思います。

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映画の幕開けは、朝靄の森の中を1人の少女が歌を口ずさみながら歩いてくるシーン。ソフィア・コッポラらしい美しい映像です。その先の木の根元に傷ついて倒れているのが北軍のマクバニー伍長。茸狩りに森に来ていた少女エイミーは、彼に肩を貸して女学校に連れて帰ります。

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北軍兵の姿に校長マーサは戸惑いますが、生徒にキリストの教えを伝えている手前、怪我人を放り出すわけにはいきません。ちょうど学校が休みで、ほとんどの生徒は自宅に帰っています。家に帰れない5人の生徒と教師のエドウィナしかいませんので、北軍兵を匿う場所もありますし、外に漏れる心配もなさそうです。

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最初はおっかなびっくり接していた生徒たちですが、次第に好奇心が勝ってきます。連れ帰ってきたエイミーが彼の世話をしていると、他の生徒たちはそれを特権だと妬み、マクバニー伍長と食卓を囲む際は、みんな精一杯おしゃれするようになるのです。

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校長マーサも世話をしているうちに情が移ったのか、それなりに矜持を保ちつつマクバニー伍長に心を開いていきます。しかし彼の心は教師エドウィナに向いていて、人目を忍んで彼女にアプローチし始めます。エドウィナの側も避けるそぶりとは裏腹に惹かれていることは明らかです。

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このように女の園に不協和音を響かせながら、微妙なバランスが保たれていくのですが、生徒のアリシアが彼を誘惑したことで状況が大きく動き出します。淡い色のお菓子のようなワンピースで着飾った彼女たちが、そのイメージを覆すような現実的な選択を行い、一気にグロテスクでゴシックな物語に変わっていくのです。

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さすが「ヴァージン・スーサイズ」で世に出たソフィア・コッポラ、女性だけの世界にそこはかとなく漂う狂気を描くのが上手です。照明や美術、衣装デザインのどれもが素晴らしい完成度ですし、自然光やろうそくの灯りで撮った映像も彼女ならではの世界観を表現していると思います。

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また、今回は大人の女性としてふるまうマーサ役にニコール・キッドマン(Nicole Kidman)を持ってきたことで、少女たちの危うさがより際立っているように思います。「ラビット・ホール」や「イノセント・ガーデン」あたりからでしょうか、ニコール・キッドマンの演技の幅が広がって、不思議なユーモアを孕んだ役が似合うようになりました。

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エル・ファニング(Elle Fanning)は「SOMEWHERE」に続く2回目の起用だと思いますが、少女のズルさがある種のエロティシズムに通じるような役がとても上手ですね。これからの活躍がさらに楽しみになります。

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移民してきたばかりの傭兵だというマクバニー伍長を演じたのは、自身もアイルランド出身のコリン・ファレル(Colin Farrell)。なかなかうまい役者さんです。今回は特に後半の演技が際立っていました。

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彼が惹かれるエドウィナを演じたのはソフィア・コッポラお気に入りのキルステン・ダンスト(Kirsten Dunst)で、原作では黒人の血を引いた複雑な役どころだそうですが、本作では北欧系らしい真っ白な肌でエレガントな雰囲気を漂わせていました。

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公式サイト
ビガイルド 欲望のめざめThe Beguiled

[仕入れ担当]