パク・チャヌク(朴贊郁)監督の作品は「オールドボーイ」などの復讐三部作と、近作「渇き」を観ていますが、この「イノセント・ガーデン」はそれらよりひとつ上の世界に達した感のある作品です。
今まで同様、「血」にまつわる物語をエロティックに描いていて、リアルな「痛み」を感じさせる表現も健在です。撮影監督も三部作から変わっていません。それなのに、ハリウッドシステムのおかげでしょうか、映像もストーリー展開も格段に洗練されていて、ワイン好きな人がよく言う「雑味のない」という表現を使いたくなる映画です。
几帳面に作り込まれたオープニングタイトル。それに続く赤く染まる花の映像と花の色についてのモノローグ、"Just as a flower does not choose its color, we are not responsible for what we have come to be"のあたりで、早くもぐんぐん引き込まれていきます。映画全体を覆う不穏な空気感を伝えながら、主人公である美少女、インディア・ストーカーの逃れ得ない宿命を感じさせる巧みな幕開けです。
事故で最愛の父を失い、美貌の母エヴィと二人暮らしになったインディア・ストーカーの元に現れた父の弟のチャーリー。ずっと欧州で暮らしていたという、ワイン通でフランス語も操るこの叔父は、しばらくストーカー家に滞在することになります。
夫との関係が冷え込んでいたエヴィがチャーリーに惹かれていることは明らかです。夫の葬儀が済んだばかりだというのに、チャーリーとテニスに興じたり、楽しげにショッピングに出かけたりします。
しかし、長いことストーカー家に勤めてきた家政婦が、チャーリーと口論していたと思ったら、その翌日に失踪。遠方から訪ねてきた大叔母も、チャーリーについて話しがあるとエヴィに言い残したまま行方不明になります。父親の不審な事故死に連動するように、次々と消えていく周りの人たち。謎に満ちたサスペンスが静かに展開していきます。
主人公のインディアを演じたのは「永遠の僕たち」の透明感あふれる演技が記憶に新しいミア・ワシコウスカ(Mia Wasikowska)。そしてその母親エヴィを演じたのが「ラビット・ホール」で熱演していたニコール・キッドマン(Nicole Kidman)。
当初はキャリー・マリガンとジョディ・フォスターの組み合わせで検討されていたそうですが、この2人のオーストラリア女優で正解だったと思います。
特にニコール・キッドマンの圧倒的な美しさと、彼女が醸し出す密やかなエロティシズムはとても大切で、この母娘が登場するだけで、2人の間にある憎しみに似た緊張感、チャーリーとの危うい関係が端的に伝わってきます。
そしてそのチャーリーを演じたのが、「シングルマン」の事故死したパートナー役だったマシュー・グード(Matthew Goode)。この役は当初コリン・ファースが想定されていたそうですが、冷徹さと執拗さを持つチャーリー役はマシュー・グードの方が間違いなくしっくりきます。
ついでに記せば、「アニマル・キングダム」「世界にひとつのプレイブック」のジャッキー・ウィーヴァー(Jacki Weaver)も重要な役で出ています。彼女もオーストラリア出身ですね。
さらに言えば、「パリ・セヴェイユ」や「タンゴ」が懐かしい、最近では「スパニッシュ・アパートメント」「しあわせの雨傘」に出ていたフランス女優のジュディット・ゴドレーシュ(Judith Godrèche)が、ほんの1シーンだけ登場します。いくら重要なシーンだからといって、物語の背景説明のためにわざわざ彼女を使わなくても、と思ってしまうほど短いシーンですが、なんとも贅沢なキャスティングです。
ちなみに原題の"Stoker"は、誰かをつけ回すストーカーのことではなく、この一族のファミリーネーム。意図したかどうかわかりませんが、ドラキュラの作者であるアイルランド人の小説家と同じ苗字です。
いずれにしても、驚くほど完成度の高い映画だと思います。映画好きの方なら観ておいて損はないでしょう。
公式サイト
イノセント・ガーデン(Stoker)
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