予告編を何度も目にして、すでに観たような気分になっていたのですが、ふと思い出し、TOHOシネマズの割引の日に観てきました。
不治の病で余命わずかな少女と、事故で両親を失い、自らも生死の境を彷徨った少年の恋愛物語。このベタな設定が、ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)監督の手にかかると、とても満足度の高い映画になってしまいます。
その理由の一つは、計算され尽され、すみずみまで意識がいきわたった、各シーンの美しさでしょう。
特にキスシーン。これほどキスシーンが素敵な映画は、ここ最近、記憶にありません。たくさんのキスが描かれますが、そのどれもが清々しくて切なくて、2人の痛みがジーンと伝わってくるような名シーンばかりです。
英語圏の媒体で添えられてた“Achingly tender and unflinching”という言葉のとおり、いたわりの心と、ひるまない心が触れ合う瞬間の痛みをリアルに感じることができました。
また出演者も適役ばかり。要となる3人が漂わす中性的な雰囲気のおかげで、死をテーマにしながら、陰鬱にならず、爽やかな印象さえ与える仕上がりになっているのだと思います。
まず、余命わずかな少女を演じるミア・ワシコウスカ(Mia Wasikowska)。「アリス・イン・ワンダーランド」、「キッズ・オールライト」と次第に存在感を増してきているように思いますが、透明感のある彼女、このアナベル役は間違いなくはまり役です。
そして故デニス・ホッパー(Dennis Hopper)を父に持つヘンリー・ホッパー(Henry Hopper)。実質的に本作がデビュー作ということですが、心の奥底に喪失感を抱え、自分の居場所を見つけられないイーノック少年の役にぴったりでした。
ちなみに、ヘンリー・ホッパーはアーティストとしても活躍していて、このサイトに作品が掲載されています。
そして、イーノックだけが見える彼の友人、ヒロシ役の加瀬亮。神風特攻隊で殉死した日本人の幽霊という微妙な役どころですが、まったく違和感なく、主役2人を上手に支えていました。
現世に思いを遺して死んだヒロシは幽霊になってさまよい、両親と共に死ぬはずだったイーノックは現世に居場所を失い、余命を宣告されたアナベルは迫りつつある自らの死に戸惑う。おそらく、この映画の原題、Restless は、死に対して中途半端な場所におかれ、rest を得られない3人を象徴しているのだと思います。
映画の中で流れる曲も、Sufjan Stevens などの優しい印象の曲がふんだんに使われていて素敵です。
映画の冒頭、他人の葬式に勝手に参列しているイーノックが葬儀業者につまみ出されそうになり、それをアナベルが救うシーン。ハル・アシュビーの「ハロルドとモード」を思い起こさせるこの出会いのシーンの背景で流れるビートルズの Two of Us が何ともいい感じです。
そしてアナベルとイーノックが、残された2人の時間を謳歌するシーンで使われる Pink Martini の Symphatique という曲。
このフランス語の歌詞の曲と、お洒落な衣装、美しい情景の組み合わせが記憶にしっかりと残り、エンディングをとっても感動的なものにしています。この曲を Amazon や YouTube で聴いていたら、また切ない気持ちが蘇ってきました。
公式サイト
永遠の僕たち(Restless)
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[仕入れ担当]