2017年は、初めがスウェーデン映画「幸せなひとりぼっち(En man som heter Ove)」、最後がフィンランド映画「希望のかなた(Toivon tuolla puolen)」と、期せずして北欧映画で始まり締め括った1年でしたが、合計64本の映画(一覧はこちら)をご紹介してきました。
その中から、厳正なる審査の結果、決定した今年のベスト5と各賞の発表です♪(2016年版はこちら)
デビュー作「シングルマン」を凌駕するトム・フォード(Tom Ford)監督の第2作目「ノクターナル・アニマルズ(Nocturnal Animals)」。満場一致(!)で今年の第1位に決定です。
映画作りのスタンダードを大きく引き上げてしまったのでは、と思わせるほど完ぺきな作り込み。神は細部に宿るを地で行くトム・フォード監督が、脚本からキャスティング、衣装、セットまでこだわり抜いた超一流のサスペンス映画です。
第2位は、マーレン・アデ(Maren Ade)監督の「ありがとう、トニ・エルドマン(Toni Erdmann)」です。とりたててドラマティックな作品ではないのですが、とても強く印象に残りました。働く女性なら誰しも、主人公イネスの行動や心情のどこかに共感できるのではないでしょうか。
あまりワーカホリックなイメージのないドイツ人ですが、働く女性を取り巻く状況はいずこも同じでしょう。「女性が輝く社会」とか「一億総活躍社会」とか、うわっすべりなコピーを並べるばかりで何もしない我が国の政治家にも少し認識を改めて欲しいところです。
母娘ではなく、父娘の関係にスポットライトを当てているのも新鮮だと思いました。
第3位も女性が主人公の映画「エル ELLE」です。と言っても、イザベル・ユペール(Isabelle Huppert)の個性なしではこれほど話題にならなかった、と言っても過言ではないでしょう。
異常な事態に淡々と自力で対処していく主人公ミッシェルを演じるイザベル・ユペール。彼女主演の「未来よ こんにちは(L’Avenir)」にも、まったく同じ風貌で登場しているのですが、こちらは実に怖い・・・。
間接的に彼女が殺してしまう犯人の妻からも感謝され、親友の夫と不倫関係にあったことで仲違いしてまう親友が最後には彼女の元に戻ってきてしまう。いろいろあっても結局は周りの女性たちの救世主となってしまうあたりが、ある種のフェミニズム映画になっているような気がします。
次はどんな映画を作ってくるの?と気になる監督っていますよね。パク・チャヌク(朴贊郁)監督もそのひとり。第4位に輝いた「お嬢さん(아가씨)」も一筋縄ではいきません。小説をベースに、この監督ならではのアレンジを加え(舞台を英国から日本統治下の朝鮮半島に変更)、さらにパワーアップさせるその手腕には舌を巻きます。
これも女性映画で、レズビアンの純愛ものです。主人公の二人の女性、秀子とスッキが屋敷から抜け出すシーンは、それはそれは美しく、またスッキが春本を捨てるシーンは、スッキの秀子への情の深さが伝わってきて、じわっと心に響いてきます。
第5位は、風変わりなキャッシュ家が魅力的な「はじまりへの旅(Captain Fantastic)」です。ヴィゴ・モーテンセン(Viggo Mortensen)演じる父親のベンと6人の子どもたちが繰り広げる珍道中が笑えます。
現代社会に対するアンチテーゼなのですが、説教くささは一切なく、家族の小気味よい会話、映像、音楽を楽しめる上質なファミリー映画です。
続いては、各賞の発表です♪
★BEST 女優賞★
「未来を花束にして(Suffragette)」で女性参政権運動に身を投じていく女性を演じたキャリー・マリガン(Carey Mulligan)さん、「ジャッキー(Jackie)」でジャクリーン・ケネディを演じたナタリー・ポートマン(Natalie Portman)さんの鬼気迫る演技、「ギフテッド(Gifted)」の子役マッケンナ・グレイス(Mckenna Grace)ちゃんの実に可愛らしく泣かせる演技(スクールバス内で、いじめっ子の男の子に立ち向かうシーンは最高)、「エル ELLE」の美魔女(?)イザベル・ユペール(Isabelle Huppert)さんも候補に上がりましたが、「女神の見えざる手(Miss Sloane)」のジェシカ・チャステイン(JessicaChastain)さんに決定です。強い女、闘う女が、今のトレンドですが、主人公のミス・スローンは最強です。まわりがどう思うかなんてお構いなし。今、ノリにノッているジェシカ・チャステインさん。主演作が目白押しで今後も楽しみです。
★BEST 男優賞★
「ありがとう、トニ・エルドマン(Toni Erdmann)」の変装好きのチャーミングなお父さん、「マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)」で感情を押し殺した演技が光ったケイシー・アフレック(Casey Affleck)さん、「沈黙‐サイレンス‐(Silence)」でロドリゴ神父を熱演したアンドリュー・ガーフィールド(Andrew Garfield)さん、「スイス・アーミー・マン(Swiss Army Man)」で死体(!)を怪演したダニエル・ラドクリフ(Daniel Radcliffe)さんを押しのけて、見事、男優賞に輝いたのは、「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜(Lion)」の成長後のサルーを演じたデブ・パテル(Dev Patel)さん。「マリーゴールド・ホテル」シリーズの剽軽なイメージを払拭した、複雑な思いが滲み出る深い演技が感動的でした。
彼の子ども時代を演じた子役サニー・パワール(Sunny Pawar)君もこれが初めてとは思えない好演でしたね。
この「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜(Lion)」は、役者の演技だけでなく映画の完成度も非常に高く、単なる母親探しの物語に終わらず、インドの恵まれない子どもたちの暮らしなど社会問題を丁寧に扱っている秀作です。
★特別審査員賞★
今年の特別審査員賞は3本。いずれも社会派ですが、一見の価値のある映画です。
「ローマ法王になる日まで(Chiamatemi Francesco – Il Papa della gente)」
つい最近はミャンマーにも訪問された現ローマ法王。暗殺の恐れをものともせず、オープンカーでパレードされ、人々と直にふれ合うことを大切にされている法王の慈悲深さと心の強さの理由がわかる一本です。
「わたしは、ダニエル・ブレイク(I, Daniel Blake)」
英国の貧困や格差の問題を扱った作品ですが、個人的には、国に関係なく、女性の貧困問題の難しさについて考えさせられる映画だと思いました。
「ドリーム(Hidden Figures)」
今年観た映画のなかで、鑑賞後に元気がでる映画の筆頭です。
男性の功績だけが語り継がれる宇宙やコンピュータの世界も、彼女たちの血の滲むような努力が支えているんですよね。
★BEST オシャレ映画賞★
ベタですが、「メットガラ ドレスをまとった美術館(The First Monday in May)」です。
単にドキュメンタリー作品としてファッション界と美術界の裏側を見せるだけでなく、登場人物たちの悪戦苦闘を丁寧に描いた人間ドラマに仕上がっています。服飾研究所のキュレーター、アンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)の“お洋服だいすき”のウキウキ感が次第にオブセッションに変わっていき、目が離せなくなります。
また、この映画を観ると、ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の昔の最高にスタイリッシュな映画が無性に観たくなります。
その他、シーンも音楽もキャスティングまでオシャレなマイク・ミルズ(Mike Mills)監督「20センチュリー・ウーマン(20th Century Women)」、レベッカ・ミラー(Rebecca Miller)監督ならではのウィットに富んだ大人のオシャレ映画「マギーズ・プラン(Maggie’s Plan)」、元祖・英国スタイリッシュ映画の続編「T2 トレインスポッティング(T2 Trainspotting)」も候補に挙がりました。
このうち2本に出演している女優グレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)は、初監督作品の Lady Bird が今年の賞レースに絡んでくるほどの出来映えだとか。日本での公開が待ち遠しいですね。
★BEST ミュージック賞★
「ありがとう、トニ・エルドマン(Toni Erdmann)」で、父のピアノ伴奏に促されて、イネスがやけっぱちになって “Greatest Love of All” を熱唱するシーン(→Youtube)は、しばらく脳裏に焼きついて離れませんでした。
ご存知、 いまは亡きホイットニー・ヒューストンの最高傑作で、自分への愛と誇りを持つことの大切さを歌って世界中の女性たちを勇気づけてくれた曲です。お父さんがあえて娘にこの歌を歌わせるあたり、お父さんなりの助言になっているのですが、彼女の揺れる心にとても共感できます。
その他、「はじまりへの旅(Captain Fantastic)」で子どもたちが、亡き母レスリーが好きだったガンズ・アンド・ローゼズの “Sweet Child o’ Mine ” をみずみずしく歌うシーン(→Youtube)も印象に残りました。
以上、モナドが選ぶ2017年のベスト映画でした。
今年もモナドのブログをお読みいただき、ありがとうございました。来年も年明けから観たい映画が目白押しです。2018年もどうぞよろしくおつきあいください。
[仕入れ担当]