原題そのもの、隠れた立場だった人たちの活躍を描いた映画です。
その活躍の場というのがNASAのマーキュリー計画。ソ連と競争しながら、1959年から1963年にかけて実施された米国の有人宇宙飛行計画のことですが、その裏方として軌道計算などに従事した黒人女性たちに光を当てていきます。つまり彼女たちの業務は未知の数字を解き明かす仕事。Figureという語に人物と数字の2つの意味を含ませた上手いタイトルですね。
物語は非常にシンプルで、1961年の夏頃から、ジョン・グレンの宇宙飛行が成功する1962年2月20日までの1年あまりを時間軸に沿って見せていきます。
中心的な登場人物は、キャサリン・G・ジョンソン、ドロシー・ヴォーン、メアリー・ジャクソンという3人の黒人女性で、それぞれタラジ・P・ヘンソン(Taraji P. Henson)、「ヘルプ」「ジェームス・ブラウン」のオクタヴィア・スペンサー(Octavia Spencer)、「ムーンライト」のジャネール・モネイ(Janelle Monáe)が演じています。
他には、計画の責任者役でケビン・コスナー(Kevin Costner)、彼女たちのスーパーバイザー役で「メランコリア」「オン・ザ・ロード」「ギリシャに消えた嘘」のキルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)が出演。
また、メアリーの夫役で「ストレイト・アウタ・コンプトン」のMC・レン役、オルディス・ホッジ(Aldis Hodge)、キャサリンに求婚する男性役で「ムーンライト」のマハーシャラ・アリ(Mahershala Ali)も出てきます。
映画の幕開けは少女時代のキャサリンが非常に優秀で、彼女を進学させるために教員はじめ周囲の人々が家族を支えようとするシーン。黒人女性という、ある種のハンディキャップを背負ったキャサリンが、学業を修めることでNASAで働けるようになっていく経緯が示されます。
そしてNASAに通勤する黒人女性3人の車がエンストしてしまうシーン。後から来たパトカーから白人の警官が降りてきて緊張が走りますが、彼女たちがNASA勤務だと知ると、ソ連に負けるなとばかりに彼女たちの車をNASAまで先導します。まだ黒人差別が濃厚だった時代性と、国を挙げて宇宙飛行計画を応援していた時代性を一瞬で説明してくれる巧い展開です。
キャサリンは数学の才能で計算分野の重要な仕事を担うようになり、ドロシーはいち早くFORTRAN(フォートラン)を習得してIBMのメインフレームを扱うようになります。
そしてメアリーは白人専用だった学校への入学を勝ち取り、プロモーションの足掛かりにしていきます。
女性が専門職に就くことが難しかったこの時代。仕事の能力を認められるだけでも大変なのに、彼女たちは黒人差別も乗り越えなくてはいけません。それにも負けず、持ち前の行動力で成功を掴んでいくパワーが爽快です。
実際にNASAの前身であるNACAラングレー研究所にはWest Area Computers(後にWest Computing office)というユニットがあり、大勢の黒人女性の数学者たちが働いていたようです。そこで最も著名な女性が1953年から勤めていたキャサリンで、2015年には文民に贈られる最高位の勲章である大統領自由勲章(Presidential Medal of Freedom)を受章しています。
黒人女性3人は実在の人物ですが、ケビン・コスナーとキルスティン・ダンストが演じた人物はドラマティックに展開させるための創作だそうです。そのせいか芝居が大げさな気もしますが、彼らとのやりとりを含めて素直に楽しめる映画です。
監督は「ヴィンセントが教えてくれたこと」のセオドア・メルフィ(Theodore Melfi)。観客を温かい気持ちにさせてくれる映画作りの姿勢は前作同様です。
いまだ女性であることが障壁になりがちな世の中で、彼女たちの信念の強さには勇気づけられます。使われている音楽も楽しく、明るい気分で映画館を後にできる映画だと思います。
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ドリーム(Hidden Figures)
[仕入れ担当]