映画「メランコリア(Melancholia)」

Melancholia0 なにかと話題の多いラース・フォン・トリアー(Lars von Trier)監督の最新作です。前作「アンチクライスト」を観たとき、彼の作品は二度と観ないと心に誓ったのですが、懲りずにまた観てしまいました。

観た感想は?というと、やっぱりラース・フォン・トリアーだった、の一言に尽きます。神経を逆なでするというか、観ているうちに息苦しくなっていく感じ。自らの鬱病のセラピーの中で着想を得たそうですが、彼と鬱病をシェアしている気分になります。

映画はメランコリア(=鬱病)という惑星が地球に衝突して人類が滅びるまでを、ある女性の結婚式のシーン、その女性が心を病み、姉と一緒に地球の最後を受入れるシーンの二場面で描きます。要するに「鬱病」が地球を滅亡させるというお話です。

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メディア等では、圧倒的な映像美などと評されていますが、確かに美しい映像とはいえ、圧倒的というのは褒めすぎかも知れません。特にオープニングなどは、過去の名画からパクった映像を得意のスローモーションで処理することで、自己批判的なパロディになっているような気がしないでもないような……。

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「ドッグヴィル」や「マンダレイ」など床に枠線を描いただけのセットで撮る監督ですから、リアリティなどどうでも良いのかも知れませんが、主人公ジャスティン役のキルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)と、姉のクレア役のシャルロット・ゲンズブール(Charlotte Gainsbourg)はどう見ても姉妹には見えませんし、母親役のシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)はさらに似ていません。

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おそらく、一種のコメディとして観るべき映画なのでしょう。ラース・フォン・トリアー映画のセリフは、アドリブ主体で組み立てられるそうですが、シャーロット・ランプリングと、父親役のジョン・ハート(John Hurt)のセリフのおかしさは格別です。

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クレアの夫を演じるキーファー・サザーランド(Kiefer Sutherland)も、ジャスティンの元上司を演じるステラン・スカルスゲールド(Stellan Skarsgård)も、これでもかというほどの俗物ぶりを発揮して、沈欝なジャスティンをさらに滅入らせるのですが、この二人のセリフもなかなか笑えます。また、何度も18ホールのゴルフコースだと確認しながら、終盤のシーンで19番ホールが出てきたりと、手の込んだ楽屋落ちも仕込まれています。

この映画の見どころは、間違いなくキルスティン・ダンストの演技でしょう。監督の自殺願望を反映した役だと思いますが、心を病み、達観して終末を迎えるキャラクターを繊細に演じています。対照的な性格の姉を演じるシャルロット・ゲンズブールも、「アンチクライスト」を乗り越えたせいか、一皮むけた印象です。

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それから、ロケ地となったスウェーデン、シュレホルム城(Tjolöholms slott)の風光明媚な景色は一見の価値ありです。この現実離れした美しい風景と、ときおり大音量で流されるワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲、そして手持ちカメラの不安定な映像で、終始、観客の気持ちを揺さぶり続け、最後まで目を逸らさせません。ラース・フォン・トリアーおそるべし、です。

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