映画「ギリシャに消えた嘘(The Two Faces of January)」

00 公開時期が話題作と被ったせいか、今ひとつ目立ってませんが、埋もれさせてしまうのがもったいない上質な作品です。原作は「太陽がいっぱい」で有名なパトリシア・ハイスミスのサスペンス小説「殺意の迷宮」。「ドライブ」の脚本家を務めたホセイン・アミニ(Hossein Amini)の初監督作品です。

原作が有名小説だと、それに引っ張られて腰砕けな作品になる例もありますが、本作については、映画の方が小説より出来が良いのが特徴。登場人物たちの出会いや事件後の展開など強引さが目立つ原作から、粗を除いて滑らかな物語に組み直した感じです。さすが、15年以上にわたって構想をあたためてきたというだけのことはあります。

出演者の演技も素晴らしいのですが、それに加えて、物語の舞台となるクレタ島の景色の美しさと、デジタル撮影とは思えない情緒あふれる映像に目を見張ります。小説ではパリに飛ぶところを映画ではイスタンブールに変えているのですが、おかげでグランドバザールなどフォトジェニックな映像が満載。原作通り、マキシムやらトゥール・ジャルダンやら左岸のキャバレーやらでロケをしなくて正解だったと思います。

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時は1962年1月。主な登場人物は、金持ちの米国人チェスター・マクファーランドとその若い妻コレット、名門大学の出身なのに、訳あってギリシアで観光ガイドをしている青年ライダルの3人です。優雅に観光しているように見えるマクファーランド夫妻も実は訳ありで、そんな3人がアテネのアクロポリスで出会うところから映画が始まります。

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女子大生を案内するフリをしてセコい詐欺を働いている男が、さっきから自分の方を見ているので用心するようコレットに告げるチェスター。しかし好奇心旺盛なコレットは、洗面所に行ったついでに男と接触し、イェールのロースクールを卒業した生粋の米国人だと知ります。彼の育ちの良さに惹かれ、自分たちの通訳として雇おうと言い出すコレット。

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結局、ガイドを依頼しただけでなく、夕食も共にすることになるのですが、その後、チェスターが誤って人を殺してしまい、その隠蔽をライダルが手伝ったことで、3人一緒にクレタ島で潜伏することになります。

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ライダルがチェスターを見ていた理由は彼が自分の父親に似ていたから、一緒に逃げることにした理由はコレットの美しさに魅了されたから。この二点を軸に物語が展開していくのですが、父親に似ていたという事実は重要で、映画はともかく、小説は明らかに父を憎む子の物語になっています。もしかするとギリシャ神話のクロノスのエピソードなどから着想を得ているのかも知れません。

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それはともかく、クレタ島へ逃げてからの3人の関係の変化がこの物語の見どころです。舞台となるのも、イラクリオン(Iraklion)とハニア(Chaniá)の街、クノッソス(Knossos)の遺跡など風光明媚な土地ばかり。青く澄んだ空の下、それぞれ心に暗いものを抱えた3人が心理的な駆け引きを繰り広げます。

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ライダルを演じたのは、「ドライヴ」や「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」での好演が記憶に新しいオスカー・アイザック(Oscar Isaac)。こういうちょっと陰のある役が合いますね。

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そしてチェスター役は「偽りの人生」「オン・ザ・ロード」のヴィゴ・モーテンセン(Viggo Mortensen)、コレット役は「メランコリア」「オン・ザ・ロード」のキルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)。小説の成金夫婦とはイメージが違いますが、彼らの洗練された雰囲気が立場の不安定さを際立たせ、物語の緊張感を高めていたように思います。

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ということで、3人の素晴らしい演技を見ながら、美しい映像で旅行気分を味わえる、一石二鳥の映画です。クレタ島の景色は大スクリーンで観たいところですが、ストーリーがしっかりしていて気軽に楽しめますので、インフライトムービーとしても最適だと思います。

公式サイト
ギリシャに消えた嘘The Two Faces of January

[仕入れ担当]