昨年10月のラテンビート映画祭以来でしょうか、久しぶりにスペイン語の映画を観てきました。
原題の"Todos tenemos un plan"は「誰にでも計画がある」という意味ですが、平穏無事な人生を過ごしていた主人公が、突如として無計画な軌道修正を図り、関係する人々の計画を崩して、さまざまな波乱を巻き起こしていくサスペンスです。
主演は「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のヴィゴ・モーテンセン(Viggo Mortensen)。彼が一卵性双生児の兄ペドロと弟アグスティンを一人二役で演じ分けます。
弟アグスティンは、ブエノス・アイレス(Buenos Aires)で働く医師。作家である妻クラウディアと何不自由ない都会的な生活を送っていますが、養子を貰う計画に納得がいかず、妻と間に気持ちのすれ違いを感じています。
そこへ故郷で養蜂をしている兄ペドロが久しぶりに訪ねてきて、自分は癌に冒されていて辛いので殺して欲しい、と懇願されます。兄の計画を一旦は退けたアグスティンですが、浴槽で咳き込んで血を吐くペドロを見て、衝動的に水に沈めて窒息死させてしまいます。
その後、アグスティンは、あたかも自分が病死したかのように見せかけ、外見が瓜二つのペドロになりきって、生まれ故郷のティグレ(Tigre)に帰ります。ティグレは、ブエノス・アイレスからラプラタ川を遡ったパラナ川に面した街。
ペドロの養蜂を手伝っていた若い娘ロサや、ペドロの友人である悪党アドリアン、その手下のルーベンといった個性的な人々が登場し、ペドロが抱えていた闇の部分が、物語を大きく展開させていきます。
クラウディアを演じたのは「瞳の奥の秘密」で検事イレーネを演じていたソレダー・ビヤミル(Soledad Villamil)。同作で被害者の幼なじみを演じていたハビエル・ゴンディーノ(Javier Godino)もルーベン役で出ています。
監督のアナ・ピーターバーグ(Ana Piterbarg)はこれが劇場用映画のデビュー作。息子の水泳教室について行ったCAサン・ロレンソ(Club Atlético San Lorenzo de Almagro)でヴィゴ・モーテンセンと出会い、脚本を渡したのがこの映画の出発点だったそう。ちなみにCAサン・ロレンソはブエノス・アイレスのスポーツクラブで、現ローマ教皇フランシスコもこのクラブのソシオ会員(こんな写真も)です。
ついでに補足しますと、ペドロがバスタブの中で読んでいた本は、オラシオ・キローガ(Horacio Quiroga)の1926年の短編集"Los Desterrados"。キローガは、ウルグアイのサルト(Salto)で生まれ、アルゼンチンのブエノス・アイレスと密林地帯のミシオネス(Misiones)で暮らした作家です。
表題作(直訳すると"亡命者たち")は、ミシオネスの年老いた元ならず者2人が故郷のブラジルに帰ろうとするお話で、開拓地の暴力的な日常と厳しい自然環境が印象的な掌編ですが、特に映画と通じる要素はありません。敢えて言えば、何の計画もなく旅立つところぐらいでしょうか。
ただ作者のキローガは、胃ガンの辛さに耐えきれず自殺していますので、そこはペドロのキャラクターと重なるかも知れません。
また、キローガの一生は不幸な死に縁取られていて、実父は猟銃の暴発で亡くなり、継父は病苦で猟銃自殺。その後、事故で友人を射殺していますし、最初の妻はミシオネスでの田舎暮らしに耐えられず青酸カリで自殺、その2人の子どもも自死を選んでいるそうです。
死の影を色濃く感じさせるキローガの生涯と、この映画の登場人物たちの間には共通項がありそうです。
公式サイト
偽りの人生(Todos tenemos un plan)
[仕入れ担当]