映画「お嬢さん(아가씨)」

00 それほどアジア映画は観ていないのですが、パク・チャヌク(朴贊郁)監督の作品は、「オールドボーイ」など復讐三部作から「イノセント・ガーデン」まで割と網羅しています。

どこが良いのかと言うと、女性視点で撮る監督だから、ということになるでしょうか。エログロが持ち味のこの監督、本作は性描写がある関係でR18+(成人映画)に指定されていますが、独善的な男性に復讐する部分でカタルシスが得られる作りですので、これもどちらかというと女性向きなのではないかと思います。

原作はサラ・ウォーターズ(Sarah Waters)のサスペンス小説「荊の城(Fingersmith)」。ロンドン・ラント街の泥棒一家で育った孤児の少女スーザン・トリンダー(通称:スゥ)が、仲間から“紳士”と呼ばれている詐欺師の手引きで令嬢モードの侍女となり、莫大な資産を狙うお話です。ディケンズの「オリバー・ツイスト」を彷彿させるヴィクトリア朝の雰囲気と、思いもよらないどんでん返しの連続が魅力の作品ですね。

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本作「お嬢さん」では舞台を日本統治下の朝鮮半島に変え、令嬢が日本人の秀子に、侍女が朝鮮人のスッキに、そして“紳士”が“伯爵”に置き換えられて作られています。これが意外にぴったりはまっていて、たとえば小説ではモードの伯父クリストファーが奇書を収集しているのに対し、本作では伯父の上月が北斎などの春画が描かれた和書を集めているのですが、書斎のイメージは違ってもまったく同類の狂気が伝わってきます。

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物語も、前半に限っては、ほぼ原作に忠実に展開していきます。

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まず高級車に乗せられたスッキが、令嬢・秀子の屋敷に送り届けられるシーン。門をくぐってからしばらく走らないと建物が見えてこないという広大な屋敷です。和洋折衷で建てられた家には、何人もの使用人が雇われていて、日本人に憧れる朝鮮人の富豪・上月と、華族令嬢の秀子が暮らしています。

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この設定でおわかりのように、さまざまな場面のセリフが日本語です。日本人である秀子と話すときはもちろん、それ以外の場面でも、詐欺師の“伯爵”も侍女のスッキも日本語混じりで会話します。演じる俳優たちは、秀子の叔母役を除いて全員韓国人ですので、やや不思議な感覚ですが、ネガティブな印象はありません。それよりも、朝鮮人の登場人物たちがが日本人を崇拝し、上流社会の言葉として日本語を喋るという設定が、韓国内でどう受け止められたのか気になってしまう感じです。

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秀子とスッキは年齢が近いこともあって、次第に親しくなっていきます。原作では、2人が同じ年齢であることが仕掛けの一つになっているのですが、映画では秀子の方が年上という設定のようです。秀子を演じたキム・ミニは1982年生まれ、スッキを演じたキム・テリは1990年生まれですので、実際にも年齢差があります。

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1人で朝鮮にわたってきて以来、孤独だった秀子と、そんな秀子の生い立ちを熟知していて、心の隙に入り込もうとするスッキ。しかし、互いに打ち解けていくに従って、スッキの心に同情心が芽生え始めます。そしてさらに関係が深まり、「アデル、ブルーは熱い色」のように展開するのですが、原作と同じなのはここまで。

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2人が“伯爵”の手引きで屋敷を抜け出したあたりから、パク・チャヌクらしい物語に大きく舵をきっていきます。原作小説で下地になっていた母の愛が、映画では女性同士の愛に置き換わります。ちなみに小説の原題は“母”を指しているのですが、映画の英題は“侍女”、邦題と原題(アガシ)は“お嬢様”と、焦点を当てる人物がそれぞれ違っています。

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この2人が屋敷を抜け出すシーンの映像がとても美しくて、まるで少女映画のような清々しさです。またスッキが春本を捨てるシーンは、情の深さが伝わってくる純愛ものののよう。こういうところがパク・チャヌク監督の不思議なところですね。といっても今回はエロだけでグロがないと油断していると終盤にちゃんと出てきます。相変わらず痛みを伝える映像は冴えていますので要注意です。

なにしろR18+ですので、どなたにでもお勧めできる作品とは言えませんが、かなり面白い映画だと思います。気が向いたらご覧になってみてください。

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