今年は2ヶ月間もすべての映画館が休館となり、話題作の公開延期が相次いだり、一時はどうなることかと心配しましたが、オンライン映画祭の上映作品2本を含む合計60本の映画(一覧はこちら)をご紹介することができました。最初が「パラサイト 半地下の家族(기생충)」、最後が「バクラウ 地図から消された村(BACURAU)」。虐げられた人々が一致団結するという、図らずも方向性の似た話題作での始まりと締めくくりになりました。
その中から厳正なる審査と独断で決定した今年のベスト5と各賞の発表です♪♪(2019年版はこちら)
★2020年BEST映画
今年の第1位は満場一致で「ジョジョ・ラビット(Jojo Rabbit)」
これほど明るい色彩で描かれた戦争映画はないのではないでしょうか。タイカ・ワイティティ(Taika Waititi)監督の独創性に拍手喝采! 主役の子役と脇を固める個性的な俳優陣のコミカルな演技で、戦争の悲惨さや愚かさが返って心に刺さります。この先、忘れられない名作になると思います。
第2位は、じんわりと心に染み入る珠玉の1本「在りし日の歌(地久天长)」
撮影テクニックに凝った作品がもてはやされているように感じる昨今の中国映画の中で、時代の流れに翻弄されながらも自らの運命を受け入れ、ひたむきに生きていく市井の人々を丁寧に描いた秀逸な作品。鑑賞後、いい映画を観たなと心から思える作品でした。
第3位は今年一番スカッとした映画「ハスラーズ(Hustlers)」
ストリッパーの女性たちが共闘してウォール街の男たちに逆襲していく姿が最高にかっこいい。女性たちの媚びない強さだけでなく、シングルマザーの不安感を併せて見せていたのも良かったと思います。転んでもタダでは起きない狡賢さこそ、これからの時代を生き抜く力ではないでしょうか。
第4位はフランスの今を体感できる「レ・ミゼラブル(Les Misérables)」
つい先月もパリで警官が黒人男性を暴行した事件に対する激しい抗議デモが行われ、フランス版 Black Lives Matter 運動が展開しているフランスですが、ニュースを観るたびに、この映画を思い出します。フランスの今をリアルに描いた、ガツンとくる1本。必見です。
第5位はモナドの BEST 映画で常連となっているグレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)監督の「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語(Little Women)」
誰もが知っている若草物語を現代的な感覚を織り込みながら reinvent。配役、脚本、セットと完璧な仕上がりです。性格も志向も違う4人姉妹。現代の女性の誰もが、この4人のどこかに共感できる映画だと思います。
★BEST 主演女優賞
◎今年の主演女優賞は2名です。
まず「ジュディ 虹の彼方に(Judy)」でジュディ・ガーランド(Judy Garland)を熱演したレニー・ゼルウィガー(Renée Zellweger)さん。ブログでも書きましたが、アカデミー主演女優賞に十分に値する渾身の演技だったと思います。歌もうまかった。
そして「在りし日の歌」で母親役を演じたヨン・メイ(咏梅)さん。息子を失った悲しみを、うつろな眼差しや震える口元だけで伝える演技力はさすがです。心に染みいる素晴らしい演技でした。
★BEST 助演女優賞
◎ダントツにこの方、「ハスラーズ」のジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)さん。
この映画を観た後、しばらくジェニファー・ロペスさんは私にとって “神” でした。彼女の演技力とダイナマイトボディがなかったら、この映画の魅力は半減していたと思います。サテライト賞の映画部門で助演女優賞を受賞し、ゴールデングローブ賞の助演女優賞にもノミネートされましたが、アカデミー賞ではノミネートすらされなかったのは不思議としか言いようがありません。「助演」ということになっていますが、彼女あっての映画です。体中に痣を作りながらポールダンスの特訓をするプロ意識の高さには脱帽です。
★BEST 主演男優賞
◎「博士と狂人(The Professor and the Madman)」のショーン・ペン(Sean Penn)さん。「きっと ここが帰る場所(This Must Be the Place)」以来、数年ぶりに出演作を観ましたが、やはり巧いですね。PTSDで精神が壊れていく狂人役を全身全霊で演じています。
★BEST 助演男優賞
◎「黒い司法 0%からの奇跡(Just Mercy)」で死刑囚を演じたジェイミー・フォックス(Jamie Foxx)さん。こんなに巧い俳優さんだとは知りませんでした。黒人というだけで凶悪犯の罪を着せられ死刑判決。死刑執行までの日々を過ごすあきらめきったような表情、同じ黒人死刑囚が死刑執行されるときの静かな涙が忘れられません。
もう一人は「ジョジョ・ラビット」で主人公の友人ヨーキーを演じていたアーチー・イェーツ(Archie Yates)君。演技が巧いかどうかはわかりませんが、インパクトは絶大です。存在そのものが映画に軽妙なアクセントを与えていました。
思い返してみれば、「ジョジョ・ラビット」で主人公のジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイビス(Roman Griffin Davis)君、ベテラン俳優でさえ難しい役どころを初出演でこなした「異端の鳥(The Painted Bird)」のペトル・コラール(Petr Kotlár)君、「ハニーボーイ(Honey Boy)」のノア・ジュプ(Noah Jupe)君、「mid90s ミッドナインティーズ」のサニー・スリッチ(Sunny Suljic)君と、今年は主人公の子役たちの素晴らしい演技が際立ちましたね。
★BEST オシャレ映画
◎「ジョジョ・ラビット」 特にスカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson) さんが演じた母親ロージーは最高にファッショナブル。帽子から靴、ヘアスタイルまで、とってもスタイリッシュ♥ ナチス旗の赤までも素敵に見えてきます。こんなお洒落な戦争映画はなかなか創れません!
昨日訃報が伝えられたファッション民主化の先駆者、ピエール・カルダン氏のドキュメンタリー「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン(House of Cardin)」、衣装にも並々ならぬこだわりを持つスペインの名匠ペドロ・アルモドバル(Pedro Almodóvar)の最新作「ペイン・アンド・グローリー(Dolor y gloria)」、ケミカルな赤にレトロなファッションのコントラストが印象的な「リトル・ジョー(Little Joe)」も候補に挙がりました。
★BEST ミュージック賞
◎なんだか今年は“ジョジョ祭り”になってしまいましたが、こちらも「ジョジョ・ラビット」。選曲のセンスは抜群でした。エンディングにデヴィッド・ボウイ(David Bowie)“Heros”のドイツ語バージョーン(→Youtube)をもってくるあたり、巧すぎます!
80年代の懐メロがてんこ盛りの「カセットテープ・ダイアリーズ(Blinded by the Light)」も良かったですね。
★審査員特別賞
映画好きの方が映画が好きな理由のひとつに、未知の世界を知るきっかけを与えてくれるということがあるのではないでしょうか。今年は特に映画があって良かったという感謝の気持ちを込めての5作品です。
◎「異端の鳥」
「ジョジョ・ラビット」とは、まったく正反対の戦争映画。戦争が暴き出す人間の本性、残酷さを徹底的に見せつけられます。とは言え、原作はもっとエグいですが。。。
◎「パブリック 図書館の奇跡(The Public)」
アメリカの現代社会における格差を扱った映画。国のために戦った退役軍人でさえホームレスになってしまうアメリカの現実には驚愕します。
◎「黒い司法 0%からの奇跡」
大統領選と Black Lives Matter で明け暮れた今年のアメリカ。トランプ大統領が任期終了間際に死刑執行を連発していると批判されていますが、この映画を観ると、アメリカの死刑制度というよりも、それ以前の段階に根本的な問題がありそうです。
◎「シチリアーノ 裏切りの美学(Il traditore)」
まるでサーカスのような法廷シーンは強烈でした。こんなシーンは映画でしか観られません。
◎「ダンサー そして私たちは踊った(And Then We Danced)」
ジョージア(グルジア)の文化を垣間見られる1本。映像も美しく、イケメン主人公メラブが民族舞踏を踊るシーンも見応えがあります。
★特に意識したわけではありませんが、今年は女性監督の作品を多く観ました。以下に挙げた13本。
今年のアカデミー賞で監督賞にノミネートされたのはすべて男性監督ですし、アカデミー賞の90年以上の歴史の中で女性監督で受賞したのはたった一人、キャサリン・ビグロー監督だけです。これほど女性監督が活躍している時代なのですから、そろそろこういったジェンダー格差が解消されても良いのではないかと期待しています。
- 「ハスラーズ」ローリーン・スカファリア(Lorene Scafaria)
- 「ナイチンゲール」ジェニファー・ケント(Jennifer Kent)
- 「ハリエット」ケイシー・レモンズ(Kasi Lemmons)
- 「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」グレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)
- 「リトル・ジョー」ジェシカ・ハウズナー(Jessica Hausner)
- 「カセットテープ・ダイアリーズ」グリンダ・チャーダ(Gurinder Chadha)
- 「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」キャシー・ヤン(Cathy Yan)
- 「ぶあいそうな手紙」アナ・ルイザ・アゼヴェード(Ana Luiza Azevedo)
- 「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」オリヴィア・ワイルド(Olivia Wilde)
- 「フェアウェル」ルル・ワン(Lulu Wang:王子逸)
- 「パピチャ 未来へのランウェイ」ムニア・メドゥール(Mounia Meddour)
- 「燃ゆる女の肖像」セリーヌ・シアマ(Céline Sciamma)
- 「ニューヨーク 親切なロシア料理店」ロネ・シェルフィグ(Lone Scherfig)
2020年はとんでもない一年でしたが、示唆に富んだ映画をたくさん観ることができました。来年も映画館で映画が楽しめる一年であって欲しいと思います。
今年もモナドのブログをお読みいただき、ありがとうございました。2021年もどうぞよろしくお願いいたします。
[仕入れ担当]