話題作ですね。グレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)監督がオルコット(Louisa May Alcott)の「若草物語」を脚色し、前作「レディ・バード」に続いてシアーシャ・ローナン(Saoirse Ronan)とティモシー・シャラメ(Timothée Chalamet)を起用して撮った作品です。原作の名場面をもれなく盛り込み、南北戦争という現代に繋がる社会問題をうまく絡めながら、女性の自立と母娘の関係というグレタ・ガーウィグらしいテーマにフォーカスすることで、少女文学の古典と今の時代感覚を絶妙に融合させています。
とても満足度の高い映画だと思いました。凝った衣装や頻繁に現れるダンスシーン、美男美女の恋物語といった昔ながらの映画の楽しさを味わわせてくれる上、素晴らしい俳優陣のおかげもあって様々な場面で心を揺さぶられます。何も考えず身を委ねれば、気持ちよく映画の世界に誘ってくれる万人向けの作品といえるでしょう。

その一方で、仕掛けもいろいろと巧妙です。たとえば、シアーシャ・ローナン演じる主人公ジョーが編集者に向かい、(あなたの要求を受け入れて)ヒロインを結婚させたのだから印税をアップして契約して欲しいと談判する場面。

表面的には、誰かの言いなりにならず、金銭の交渉も厭わない強い女性像を描いた場面ですが、おそらくそれだけではありません。映画界での男女のギャラ格差が問題になっていた頃に撮られていますので、ある種の主張が織り込まれているかも知れませし、著作権を手放さないというクリエーターとしての心掛けかも知れませんが、それだけでもないでしょう。

ご存じのように自伝的小説である「若草物語」のジョーは、作者オルコットがモデルになっているわけですが、小説のジョーとは異なり、オルコットは生涯独身を通します。結婚だけが女の幸せではないと主張していたジョーを含む、3姉妹全員が結婚して大団円を迎える展開が、作者の意思に反していたのではないかという監督の仮説がこのシーンの背景にあるようです。つまり編集者と交渉しているジョーは、実はオルコットであるというメタフィクションになっているのです。

また、この映画は原作の時系列を入れ替えて作られているのですが、登場人物である作家のジョーが、悩みながら自作原稿の順番を入れ替える場面が描かれます。この場面のジョーは脚本を書いたグレタ・ガーウィグなのでしょう。そういった意味で、作り手の仕掛けを読み解く楽しみを与えてくれる作品でもあります。

映画は、プロットも4姉妹の性格の違いもほぼ原作通りです。ローレンス家やブルック先生、フンメル家についてはほとんど説明しませんが、誰もが原作を読んだことがあるという前提で省かれているのでしょう。ただし宗教的な要素は原作に比べてかなり薄められています。

たとえば、三女ベスというと賛美歌のイメージがあるかと思いますが、映画ではベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴」を弾いたりします。これが後で効いてきて、フリッツ・ベアがマーチ家を訪ねたとき、ベスの遺品であるピアノで同じ曲を弾くんですね。それをきっかけに、結婚に否定的だったジョーの気持ちが急速に傾いていくという、なかなかうまい作りになっています。

このベア教授、原作ではドイツ系だったと思いますが、映画ではフランス人のルイ・ガレル(Louis Garrel)が演じています。ブルック先生役は英国人のジェームズ・ノートン(James Norton)ですので男性陣については多国籍ですね。ローリーもティモシー・シャラメが演じたことで、マーチおばさんが“イタリア系だから”とわざわざ人種に言及します。

そのマーチおばさんを演じたのは大御所メリル・ストリープ(Meryl Streep)、4姉妹の母親を演じたのがローラ・ダーン(Laura Dern)と豪華な俳優陣です。

他のキャストも粒ぞろいで、長女メグをエマ・ワトソン(Emma Watson)、四女エイミーをフローレンス・ピュー(Florence Pugh)、ローレンス氏をクリス・クーパー(Chris Cooper)、ジョーの担当編集者をトレイシー・レッツ(Tracy Letts)が演じています。三女ベス(幼く見えるので四女と勘違いしそうです)を演じたエリザ・スカンレン(Eliza Scanlen)は初めて見ましたが、オーストラリア出身の女優で、実際にピアノが弾けるようです。

公式サイト
ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語(Little Women)
[仕入れ担当]