昨年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した作品です。TOHOシネマズ日比谷の先行公開で観てきました。上映前にポン・ジュノ(Bong Joon-Ho)監督と出演者からのメッセージ映像が流れ、絶対にネタバレしないで欲しいと念を押していましたので詳細は書けませんが、後半で無茶苦茶になっていく展開が大きな魅力になっている作品です。先入観なく、まっさらな状態でご覧になった方が楽しめると思います。
これまでも「グエムル-漢江の怪物-」や「スノーピアサー」「オクジャ」といった作品で国際的に高く評価されている監督ですが、私はタイミングが合わなくて一作も観たことがなく、作風など詳しいことはわかりません。今回、初めて観た印象としては、現代的なセンスとリアルな生活感をうまく混ぜ合わせ、韓国映画らしい政治風刺やエログロを織り込みながら丁寧に作り込まれていると思いました。

物語の中心になるは2組+αの家族たち。+αの家族はさておき、前半では一家で失業中の貧困層とITで財を成した新興富裕層という対極にある2つの家族が交わっていく課程が描かれます。

貧困層のキム家は、父親ギデクが台湾カステラ(おそらく大王カステラ=テワンカステラのこと)をはじめとするさまざまな事業に失敗し、今は家族全員で宅配ピザの箱を組み立てて糊口をしのいでいます。
母親チュンスクは元ハンマー投げのメダリストのようですが、その功績が地位や金銭に繋がることもなく(後半で役立ちますが…)、今は甲斐性なしの夫の尻を叩くのみ。息子のギウは兵役前と兵役後に各2回、大学受験に失敗し、現在は浪人状態です。そして娘のギジョンは美大への進学を希望し、能力も高そうですが、予備校に通う家計の余裕がないのでニート状況にあるようです。

富裕層のパク家は、父親ドンクイがIT企業の社長。いわゆるチェボル(財閥)ではなく、自らの才で築いた地位のようで、それなりに尊敬されているようです。母親のヨンギョは富裕層夫人らしい清楚な雰囲気を漂わす、若く純真(young and simple!)な女性。娘のダヘは大学受験を控える可愛らしい少女。息子のダソンはやや情緒不安定な少年。数年前に幽霊をみて、少しおかしくなってしまったようです。

住んでいる場所も対照的で、キム家は集合住宅の半地下。もともと防空壕を意図して作られた場所に無理矢理、住宅設備を入れたようで、不思議な部屋です。

たとえば水洗トイレ。地下住居なのに汚水槽やくみ上げポンプは無いらしく、室内のいちばん高い位置に便器を置いて排水が下水管に落ちるようしています。下水直結ですからニオイも漏れるでしょうし、部屋が下水管より低いわけですから大雨が降れば逆流した汚水が便器から室内に流れ込みます。
対するパク家は街を見下ろす高台の豪邸。有名建築家ナムグン(Namgoong Hyeonja)の自邸だったという開放感ある建物で、リビングの大きなガラス窓から広々とした芝生の庭を見渡せます。駐車スペースには街乗り用のメルセデスと週末用のRVの2台が収まっていて、いかにも金持ちという雰囲気を醸しますが、実はセットだそうで、建築家も架空の人物です。

湿気と陽光、閉塞感と開放感に象徴される異質な2家族が、ダヘの家庭教師だったミニョクが留学することになり、旧友のギウに代理を頼んだことで接点を持ち始めます。器用な妹ギジョンが偽造した在学証明書をもってパク家を訪ねるギウ。すぐに“young and simple”なヨンギョ夫人に取り入り、ダヘの心も掌握して家庭内に入り込みます。

そしてヨンギョの悩みのタネである息子ダソンの画才を持ち上げ、シカゴで芸術心理学を学んだという触れ込みの女性教師ジェシカを紹介します。そうしてジェシカに成りすましたギジョンもパク家に入り込みます。

お抱え運転手ユンを罠にはめて父親ギデクに入れ替えさせ、家政婦ムングァンを追い出して母親チュンスクを呼び込み、家族全員がパク家に寄生することになります。本当の家族が収入を得るために赤の他人を演じるという設定は、本作の前年のパルムドール受賞作「万引き家族」が身を寄せ合って暮らす血の繋がらない家族を描いていたことと裏表ですね。

万事うまくいったかのように見えたキム家ですが、パク家が息子の誕生祝いにグランピングに出かけた晩、大雨が降って虚構が崩壊し始めます。どう崩れていくかは観てのお楽しみですが、ある種の階級闘争と言って良いのではないでしょうか。ブラックコメディで包み込んだ悲劇が、家族の物語に収斂していきます。

キム家の父親ギデクを演じたのは韓国を代表する名優であり、この監督の盟友でもあるソン・ガンホ(Song Gang-ho)。その息子ギウ役は「オクジャ」のチェ・ウシク(Choi WooShik)、パク家の父親ドンクイ役はイ・ソンギュン(Lee sonkyun)、その妻ヨンギョ役はチョ・ヨジョン(Jo Yeo-jeong)が演じています。その他、ギウの友人ミニョク役でパク・ソジュン(park seo jun)が特別出演しています。

公式サイト
パラサイト 半地下の家族(Parasite)
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