タイトル通り1990年代半ばを時代背景にイースト・ロサンゼルスで暮らす13歳の少年を描いていく映画です。これが初監督作品となるジョナ・ヒル(Jonah Hill)は、タランティーノ監督「ジャンゴ」、スコセッシ監督「ウルフ・オブ・ウォールストリート」、コーエン兄弟「ヘイル、シーザー! 」と名匠の作品に次々と出演し、ベネット・ミラー監督「マネーボール」ではブラッド・ピット、ガス・ヴァン・サント監督「ドント・ウォーリー」ではホアキン・フェニックスと競演して存在感を示してきた俳優。1983年生まれのロサンゼルス育ちということで、監督自身の経験が多分に投影された作品になっています。
主人公のスティーヴィーは、兄イアンとシングルマザーである母ダブニーの3人家族です。スティーヴィーはイアンを畏怖しつつ、微かな対抗心を抱いているようですが、それは二人が異父兄弟であることが影響しているのかも知れません。また二人とも、美しく奔放な母親に対して複雑な感情を持っているようです。
映画の幕開けは、スティーヴィーとイアンが取っ組み合いの喧嘩をしている場面。年齢差も体格差もありますので、スティーヴィーが一方的にやられるばかりです。とはいえ、二人の仲が悪いわけではありません。日頃から一緒にTVゲームをしていますし、イアンの外出中に彼の部屋でCDコレクションをチェックしてから誕生日プレゼントを贈ったりしています。部屋に忍び込むスティーヴィーがストリートファイターIIのTシャツを着ているあたりに時代性を伺わせます。

これに限らずディテイルに凝った映画で、スティーヴィーは”ビーバス&バットヘッド”や”レンとスティンピー”といったアニメキャラのTシャツがお気に入りのようですが、スケボーを始めてからはShorty’sを着ますし、仲間たちもBlind Skateboards、Girl Skateboardsといったブランドや、サイプレス・ヒルのようなヒップホップグループのTシャツ姿で出てきて、同時代のヒップホップもたくさんかかります。といっても全然詳しくない私は序盤でかかるシールのKiss from a Roseと終盤でかかるモリッシーのWe’ll Let You Knowしか知っている曲がありませんでしたが・・・。

スティーヴィーにとって今まで年上のイアンがロールモデルでしたが、13歳という年齢は未知な世界に惹かれる年頃。近所のスケボーショップに集るスケーターたちに関心を持ちます。最初はおっかなびっくり接していたスティーヴィーも、少しずつ彼らと打ち解けていき、仲間の一人として受け入れられるようになります。

リーダー格のレイと、通称ファックシット、フォースグレードの3人はかなり年上ですが、ルーベンとの年の差はあまりなさそうです。ルーベンの傍らで年上の3人を観察しながら、スケートボードのテクニックだけでなく、さまざまな”クールなこと”を学んでいくスティーヴィー。タバコや酒だったり、女の子との関係だったり、多くの男の子が経験する通過儀礼です。
彼らとの付き合いをイアンに隠し、自分だけの世界を持っている優越感にひたります。母ダブニーにも内緒ですので、家に入る前にタバコのニオイを消し、服を着替えます。今風のスケートボードを手に入れたくてダブニーのおカネをくすねたり、仲間に認められたくて無理な滑りをして怪我を負ったりしますが、新しい世界に足を踏み入れることで頭が一杯ですので、ことの善し悪しは気になりません。背伸びすることが何よりも大切なのです。

スティーヴィーの新たなロールモデル、レイはラルフ・ローレンのRL-93やPoloを着ていて他の3人より育ちの良さを感じさせる黒人ですが、彼との会話シーンはこの映画の核になる部分だと思います。その他、ルーベンと険悪になったり、ファックシットの問題を知ったり、スケーターたちと過ごすことでスティーヴィーは一歩ずつ大人になっていきます。

最後はアクシデントに見舞われて終わるのですが、フォースグレードの夢が少し叶い、それによって一つの時代に節目をつけてエンディングを迎える作りは絶妙だと思いました。ジョナ・ヒル監督の次作に期待です。

スティーヴィー役は「聖なる鹿殺し」で脚が動かなくなる少年ボブを演じていたサニー・スリッチ(Sunny Suljic)。「ドント・ウォーリー」で最後に出てくるスケーターの1人としてジョナ・ヒルと共演したことで気心が知れているのか、本作ではサンバーンという内輪ウケっぽいあだ名が付けられます。ちなみに本作を全編16mmフィルムで撮影したクリストファー・ブローヴェルト(Christopher Blauvelt)も「ドント・ウォーリー」で一緒だった撮影監督です。

兄のイアンを演じたのは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「レディ・バード」のルーカス・ヘッジズ(Lucas Hedges)。このところ「ハニーボーイ」「WAVES ウェイブス」と似た風情で出演していましたが、本作もその延長上にある感じです。彼の出演シーンだけ抜き出すと、どの映画かわからなくなりそうです。

母親ダブニー役は「インヒアレント・ヴァイス」で主人公の元カノ、「スティーブ・ジョブズ」でジョブズの娘の母親を演じていたキャサリン・ウォーターストン(Katherine Waterston)で、今回も真面目そうに見えて男性関係の問題を抱えていそうな危うい雰囲気を巧みに醸し出していました。

スケボー仲間たちは全員プロ・ライダーだそうで、レイ役はHardiesというブランドも運営しているナケル・スミス(Na-Kel Smith)。シェリル・クロウの髪型のファックシット役はオーラン・プレナット(Olan Prenatt)、フォースグレード役はライダー・マクラフリン(Ryder McLaughlin)、ルーベン役はジオ・ガリシア(Gio Galicia)が演じていて、3人ともIllegal Civilization所属のライダーとのこと。

その他、年上の少女エスティー役で「WAVES ウェイブス」のアレクサ・デミー(Alexa Demie)が出ています。

公式サイト
ミッドナインティーズ(mid90s)

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