映画「ドント・ウォーリー(Don't Worry, He Won't Get Far on Foot)」

callahanガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)監督が風刺漫画家ジョン・キャラハン(John Callahan)の半生記を映画化した作品です。予告編などでホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)演じる主人公キャラハンが電動車いすを乗り回す映像が流れますので、身体に障碍を持つ人が再起を果たす感動的なストーリーかと思っていたら、再起は再起でも、アルコール依存症から抜け出すお話でした。

このキャラハンという人物、いろいろと問題の多い人で、率直に言って、共感できるようなタイプではありません。そもそも車いすの生活になったのも、さんざん飲み歩いた後に泥酔状態の友人が運転する車に同乗したことが原因。持ち前の明るさで精神的に立ち直りますが、そこで描き始めた風刺漫画もかなり微妙で、大勢のファンがいたというものの、掲載紙“Willamette Week”のボイコット騒ぎがあったという話もうなづけます。

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逆の見方をすれば、半身不随になったことで、自らの方向性が定まって漫画の道に進み、障碍があることで、タブー視されがちな内容も手がけやすかったと言えるかも知れません。また障碍があることで注目を浴びやすくなり、多くの人に支えられたという面もあると思います。それにもかかわらず、酒をやめられずに苦悩するのですから困った人です。

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映画の概ねのストーリーは、半身不随になったキャラハンが、元々の険のある性格を打ち破ってAA(アルコホーリクス・アノニマス)に通い、それぞれ問題を抱える人たちと交流していくというもの。中心となるのは、そのAAの主宰者であるドニーという男で、ぱっと見では判らないかも知れませんが、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で下品な副社長役だったジョナ・ヒル(Jonah Hill)が演じています。また、最終的には事故を起こした友人デクスターと再び語り合える仲になるのですが、それを演じているのがジャック・ブラック(Jack Black)で、この3人の役者のうまさが何よりの見どころという映画です。

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特にジョナ・ヒル。こういう演技もできるのかと、ちょっと驚いてしまいました。AAの自助グループの運営者を演じるわけですから、いったんどん底まで落ち、そこから回復した経験で社会貢献しようと思うまでの人生の蓄積を滲ませなくてはなりません。言い換えれば、言わずして語る部分が多く、それが演技の核になる役です。そういった難しい役を、これ以上の適役がないと思わせるような佇まいで演じています。

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もちろん、ホアキン・フェニックスのうまさは折り紙つき。キャラハンのような問題ある人物も、彼が演じたことでそれなりに受け入れられるようになり、アンビバレンスな感情を抱きながら映画を楽しむことができるようになります。さすがとしか言いようがありません。

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実はもう一人、重要な登場人物がいて、ルーニー・マーラ(Rooney Mara)が演じてます。ただ美しいだけでなく、演技力もしっかりした人ですので、映画に華を添える以上の存在感を示しているのですが、演じた役が取って付けたような中途半端な役で、ちょっともったいない気がしました。

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あまり有名ではないかも知れませんが、AAに参加している訳知り顔の女性はソニック・ユースのキム・ゴードン(Kim Gordon)です。ファッションブランド“X-girl”の創業者でもある彼女、ある種の人たちにとってはアイコニックな存在ですよね。ブランド創業時はソフィア・コッポラやマイク・ミルズも参画していたようですから、映画業界との繋がりも強いのだと思いますが、こんな役で目にするとは思いませんでした。

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ちなみにAAに参加しているもう一人の女性もベス・ディットー(Beth Ditto)というミュージシャンだそうです。また、路上でスケートボードをしている少年の一人、レオ・フェニックス(Leo Phoenix)はホアキン・フェニックスの甥です。

公式サイト
ドント・ウォーリーDon’t Worry, He Won’t Get Far on Foot

[仕入れ担当]