今年も落ち着かない状況が続く中、映画館がしっかり対策して営業を続けてくれたおかげで、好きな映画を劇場で楽しむことができました。このブログでご紹介したのは昨年と同じく合計60本です(一覧はこちら)。

その中から厳正なる審査と独断で決定した今年のベスト5と各賞の発表です♪♪(2020年版はこちら)
★2021年BEST映画

2021年の第1位は、ご存知のとおりアカデミー賞をはじめ数多の映画賞を総なめにした「ノマドランド(Nomadland)」です。
高齢者の車上生活という悲惨な部分ではなく、何にも寄りかからず自由であることを選ぶアメリカ的な生き方を、中国人のクロエ・ジャオ(Chloé Zhao)監督が美しい映像とフランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)の情感あふれる演技で描いた素晴らしい映画でした。

第2位は「ベイビーティース(Babyteeth)>」
観る前はそれほど期待していなかったのですが、途中から涙腺が緩みっぱなし。主人公の母親と父親の姿に共感できる味わい深い1本です。これが長編デビュー作というシャノン・マーフィ(Shannon Murphy)監督。2作目が楽しみです。

第3位は、パオロ・ソレンティーノ(Paolo Sorrentino)監督の自伝的映画「Hand of God -神の手が触れた日-(È stata la mano di Dio)」です。
イタリア映画と言えば、家族の物語ですが、「Hand of God」の大家族はそれぞれが個性的で、物語も一筋縄には行きません。そして、どのシーンも映像が素晴らしい(特に、家族の午餐のシーン!)。いますぐイタリアに飛んで行きたくなります。

第4位は久々のジェーン・カンピオン映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ(The Power of the Dog)>」
さすが、ジェーン・カンピオン監督。とても丁寧に、熟練の職人的な映画作りをしています。配役も、脚本も、撮影も、どれをとっても超一級品です。

第5位は、主演アンドリュー・ガーフィールド(Andrew Garfield)のひたむきな演技が胸に刺さった「tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!>」
なぜか漫画家・水木しげるの「幸福の七ヶ条」にある「才能と収入は別。努力は人を裏切ると心得よ」を思い出しました。才能って、好きなこと、やりたいことを、どれだけ突き詰めることができるか、なのだなと感じた映画でした。
★BEST 主演女優賞
◎「ノマドランド(Nomadland)」で3度目のアカデミー主演女優賞を獲得したフランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)さん。これまでは軽妙な語り口とは裏腹な深い演技をみせるという印象だったのですが、本作では語らずして語る演技で魅せてくれました。
本日公開のジョエル・コーエン監督「マクベス(The Tragedy of Macbeth)」でのマクベス夫人役も楽しみです。
「リスペクト(Respect)」でアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)を熱演し、本人顔負けの歌唱力も披露したジェニファー・ハドソン(Jennifer Hudson)さん、「プロミシング・ヤング・ウーマン(Promising Young Woman)」でこれまでのイメージと違う役柄に挑んだキャリー・マリガン(Carey Mulligan )さん、「パーフェクト・ケア(I Care a Lot)」ではまり役だったロザムンド・パイク(Rosamund Pike)さんも候補に上がりました。
★BEST 助演女優賞(aka “母ちゃん” 賞)
◎今年の助演女優賞は、この人しかいません。「ベイビーティース(Babyteeth)」と「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング(True History of the Kelly Gang)」で母親役を演じたエシー・デイビス(Essie Davis)さん。
「ベイビーティース(Babyteeth)」では余命幾ばくもない愛娘との生活で精神的に不安定になっている母親役を
「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング(True History of the Kelly Gang)」では、死刑執行を待つ息子に、Mind you die like a Kelly, son(ケリー家の人間らしく死ぬんだよ)と凄みをみせる母親役を熱演していました。
★BEST 主演男優賞
◎大混戦の今年の主演男優賞を制したのは、「tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!」で劇作家ジョナサン・ラーソン(Jonathan Larson)を演じたアンドリュー・ガーフィールド(Andrew Garfield)さん。風貌というか雰囲気も似ています。演技だけでなく、歌も上手いですね。
惜しくも選に漏れたのは「パワー・オブ・ザ・ドッグ(The Power of the Dog)」で嫌われ役を(本人も’I loved not being a people-pleaser’とインタビューで答えてました)、「クーリエ 最高機密の運び屋(The Courier)」では大変な減量して本人になりきったベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)さん。うますぎますね。
他に候補に挙がったのは、「スーパーノヴァ(Supernova)」で玉ねぎを刻みながら、自分が動揺していることを隠すためにトイレに入って静かに泣くシーンが印象に残ったコリン・ファース(Colin Firth)さん。彼だからこそできる繊細な演技です。「どん底作家の人生に幸あれ!(The Personal History of David Copperfield)」のデブ・パテル(Dev Patel)さん、「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング(True History of the Kelly Gang)」のジョージ・マッケイ(George MacKay)さんも素晴らしかった。気がつけば全員英国人俳優ですね。
★BEST 助演男優賞
◎助演男優賞も助演女優賞と同じく「ベイビーティース(Babyteeth)」のベン・メンデルソーン(Ben Mendelsohn)さんしかいません!特に最後のシーンは染みいります。
今年2月公開予定の、あの「シラノ・ド・ベルジュラック」をジョー・ライト監督が映画化した「シラノ」にも出演しているようです。こちらも要注目です。
★BEST オシャレ映画
◎「ヘルムート・ニュートンと12人の女たち(Helmut Newton: The Bad and the Beautiful )」
扇情的な写真を撮るファッションフォトグラファー、くらいの知識しかなかったのですが、ヘルムート・ニュートンの人生をたどることで、彼の人となりがわかる興味深い映画でした。本人だけでなく、後に写真家となった妻ジューンとの二人三脚の人生そのものがオシャレです。
★BEST ミュージック賞
◎「サマー・オブ・ソウル(Summer of Soul)」や「アメリカン・ユートピア(David Byrne’s American Utopia)」など今年はミュージシャンにまつわる映画が例年になく多かったように思います。その中でも新鮮だったのは「ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている(Billie Eilish: The World’s a Little Blurry)」。
子どもの頃にデビューし10代で米国音楽業界で成功すると、その後はドラッグに溺れて・・・という展開になりそうですが、ビリー・アイリッシュの場合は家族で支え合い、業界のことを良く知っている両親がいつも寄り添っているので、これからも期待できそうですね
憧れのジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)と初めてコーチェラ(Coachella Valley Music & Arts Festival)で対面したときのシーンは最高です。まったく普通のティーンエイジャー! ガーディアン紙のThe best movie moments of 2021に選ばれるだけあります。
◎選曲の良さでは「ベイビーティース(Babyteeth)」がセンス抜群でした。
CDショップがなくなってしまった今、映画で使われる楽曲が新しいミュージシャンや音楽を知る情報源として貴重ですね。
★BEST 映像賞
◎甲乙つけがたい映像美の映画の中で「ノマドランド(Nomadland)」。アメリカ中西部の広大な風景、夜が明ける瞬間の幻想的な映像がこの映画を支えています。
そして「Hand of God -神の手が触れた日-(È stata la mano di Dio)」と「パワー・オブ・ザ・ドッグ(The Power of the Dog)」、いずれも女性の撮影監督です。昨年、女性の映画監督による映画が評価されるようになってきたと書きましたが、撮影監督にも女性が増えてきているのは嬉しいですね。
圧倒的なスケールという点で「DUNE デューン 砂の惑星」も記憶に残りました。
★審査員特別賞
◎「83歳のやさしいスパイ(El Agente Topo)」
今年一番心がじんわりとあたたかくなった映画。なんか最近疲れてるなぁ、と感じているときにおすすめです
ドキュメンタリーですので主役という言い方は変ですが、スパイとして雇われるセルヒオ(Sergio Chamy Rodríguez)が最高です。大変なモテ男なのに、言い寄ってくる女性たちに誠実に接しつつ、それでも与えられた任務を全うしようとする生真面目な姿が心に響きます。
◎「アイダよ、何処へ?(Quo Vadis, Aida?)」
この映画を観なければ知ることがなかったボシュニャク人に対するセルビア人によるジェノサイド、スレブレニツァの虐殺。目を覆いたくなるような惨殺なシーンはないのに、観る人の想像力に訴えかけ、人間の残虐な面をずしんと伝える映画です。今からわずか25年前のことだとは信じられません。
★セットでみま賞
セットで観ることで、いろんな発見ができて、味わい深さも倍増します。
◎先に「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン(Amazing Grace)」を観て、その後「リスペクト(Respect)」を観たことで、彼女が単にゴスペルアルバムを作りたかっただけではないことがわかりました。
「リスペクト(Respect)」でアレサ・フランクリンを演じたジェニファー・ハドソンと、その父親役のフォレスト・ウィテカー(Forest Whitaker)。
このお父さん、なかなかに曲者です。
◎「ディエゴ・マラドーナ 二つの顔(Diego Maradona)」を観てから、「Hand of God -神の手が触れた日-(È stata la mano di Dio)」をご覧になるのが断然おすすめです。映画の前提である”マラドーナに熱狂するナポリ”がよくわかり、より共感できます。
ナポリの人々にとって、マラドーナは有名サッカー選手というだけでなく、人生そのものなんですよね。
「Hand of God」はその題名からもおわかりのように、ナポリっ子だった監督のマラドーナへのオマージュでもあるのです。
◎最後はちょっと無理やりですが、「イン・ザ・ハイツ(In the Heights)」と「tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!」
前者は劇作家リン=マニュエル・ミランダ(Lin-Manuel Miranda)の原作を映画化した作品、後者は彼が初監督した映画、とゆるくつながっています。
ミュージカルの映画化は、最近の流行りでしょうか。来年2月に公開されるスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督の「ウエスト・サイド・ストーリー(West Side Story)」も話題ですね。コロナ渦で「歌あり、踊りありの元気になれる映画が観たい!」ということなのでしょうか。
セットで、と言えば、今年観たビリー・ホリデイ(Billie Holiday)のドキュメンタリー映画「BILLIE ビリー」。来年2月にはリー・ダニエルズ監督による「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ」が公開されます。こちらもぜひセットで楽しみたいですね。
今年もモナドのブログをお楽しみいただき、ありがとうございました! 2022年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします!!
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