映画「ブルックリン(Brooklyn)」

00 アカデミー賞の作品賞と脚色賞にノミネートされた作品です。監督は「ダブリン上等!」のジョン・クローリー(John Crowley)。アイルランドの作家コルム・トビーン(Colm Tóibín)の同名小説を、「17歳の肖像」「わたしに会うまでの1600キロ」の脚本を手がけたニック・ホーンビィ(Nick Hornby)が脚色しています。

元々は「ハイ・フィデリティ」「アバウト・ア・ボーイ」などの小説家として知られたニック・ホーンビィ、本作で「17歳の肖像」に続くアカデミー賞ノミネートということで、そろそろ「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドのように監督業に進出するかも知れません。

主演は「つぐない」「ハンナ」「グランド・ブダペスト・ホテル」などのシアーシャ・ローナン(Saoirse Ronan)で、まさに彼女のための映画です。彼女なくしてこの情感は出せなかったでしょうし、この物語だからこそ彼女の個性が生きたのだと思います。代表作になることは間違いありません。

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そして、この映画のもう一つの素晴らしさは色彩。主人公の心情に合わせて変わっていくコスチュームの色も、3つの場面を特徴づける色調も、完璧にコントロールされています。撮影はイヴ・ベランジェ(Yves Bélanger)。「私はロランス」「ダラス・バイヤーズクラブ」「わたしに会うまでの1600キロ」の撮影も手がけたと聞けば納得です。

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始まりはアイルランドのウェックスフォード州エニスコーシー(Inis Córthaidh:英語ではEnniscorthy)。シアーシャ・ローナンの名前もそうですが、アイルランド語というのは文字だけではまったく発音がわかりませんね。アイルランド人の両親のもとブロンクスで生まれ、しばらくアイルランドで暮らしたシアーシャ・ローナンですが、彼女のアクセントはダブリン訛りだということで、舞台となるウェックスフォード(Wexford)の訛りに修正して演じたそうです。

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そんな彼女が演じるエイリッシュは20歳前後でしょうか、この小さな町で母と姉と暮らす少女です。会社で経理の仕事をしている姉のように専門職に就きたいと思いつつ、今はミス・ケリーの食品店の売り子をしています。1951年というこの時代、片田舎の少女にとって、手に職をつけない限り、地元の男性と結婚するぐらいしか道がないのです。

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そんななか、姉が懇意にしていた神父から、ニューヨークに来ないかという誘いを受けます。住む場所も仕事もあるということで、この閉鎖的な町に比べれば夢の世界です。気掛かりなのは、自分がいなくなると、母の面倒から何もかも姉が負担しなくてはならないこと。しかし、姉の強い後押しもあって、不安を抱えながらもエイリッシュは旅立つ決心をかためます。

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ニューヨークに着いたエイリッシュは、ブルックリンのクリントン通りにあるキーオ夫人の下宿に住まい、フラッド神父から紹介された百貨店の服飾雑貨売場で働き始めます。

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最初のうちは、うまく接客できずに落ち込んだり、ホームシックにかかったりしますが、上司であるミス・フォルティニの支えもあって、次第に街の生活に馴染んでいきます。

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そして、神父の勧めでブルックリン・カレッジの夜間コースで簿記(bookkeeping)を学ぶことになります。手に職をつけたいというエイリッシュのかつての夢が叶うのです。また、教会のチャリティで貧しい高齢者たちと接し、かつて肉体労働者として渡ってきたアイルランド移民たちの厳しい現実も目の当たりにします。こういった光と影がエイリッシュを成長させていきます。

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ある晩、アイルランド系の移民が集まるダンスパーティに出掛けていったエイリッシュは、トニーというイタリア系の青年に出会います。

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作者のコルム・トビーンによると、1950年代のニューヨークでは、イタリア系の男性にとって、アイルランド系の女性と付き合うことが一種のステイタスだったそう。それでイタリア系とアイルランド系のラブストーリーを思いついたということです。

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トニーとの交際を通じて居場所を確立しつつあったエイリッシュですが、突然、姉の訃報が伝えられます。後ろ髪を引かれながらアイルランドに一時帰国するエイリッシュ。姉を失った実家には老いた母一人のみで、彼女のそばにいてあげたいという思いが募ります。

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そんなとき、結婚する旧友と出掛けた際にジムという地元の青年と親しくなります。また、姉が働いていた会社の経理を手伝ったことから、姉のかわりに入社して欲しいと誘われます。

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もしニューヨークに経つ前にその状況だったら、どちらも受け入れ、ずっとこの地で暮らしたことでしょう。しかし、今のエイリッシュにはトニーがいます。母とジムが暮らすアイルランドと、トニーが暮らす米国との間で心が揺れます。

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そのジムを演じたのは、「わたしを離さないで」ではちょい役だったものの、最近は「レヴェナント」「エクス・マキナ」とどんどん存在感を高めてきたドーナル・グリーソン(Domhnall Gleeson)。対するトニーを演じたエモリー・コーエン(Emory Cohen)は「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」でブラッドリー・クーパーの息子AJを演じていた人。ちょっと見ないうちに、ずいぶん成長しました。

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キーオ夫人を演じたジュリー・ウォーターズ(Julie Walters)は「リトル・ダンサー」のコーチ役や「ワン チャンス」のポールの母親役を演じていた英国のベテラン女優。またフラッド神父を演じたジム・ブロードベント(Jim Broadbent)は「家族の庭」の主人公トム、「マーガレット・サッチャー」のデニス・サッチャーを演じていた、これまた英国のベテラン男優です。

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今年は、本作といい「キャロル」といい、50年代ニューヨークの百貨店を舞台にした良作が目立ちますね。こちらも、しっとりした情感豊かな映像といい、シアーシャ・ローナンの魅力溢れる演技といい、「キャロル」に引けをとらない必見の1本だと思います。

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ブルックリンBrooklyn

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