映画「レヴェナント 蘇えりし者(The Revenant)」

00_2アカデミー賞ノミネートは6回目、うち主演男優賞ノミネートは「アビエイター」「ブラッド・ダイヤモンド」「ウルフ・オブ・ウォールストリート」に続く4回目というレオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)が、初めてオスカー像を手にしたことで話題を集めた作品です。

作品そのものも、作品賞や助演男優賞を含む12の賞にノミネートされ、監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(Alejandro González Iñárritu)が「バードマン」に続く2年連続の監督賞、撮影のエマニュエル・ルベツキ(Emmanuel Lubezki)が「ゼロ・グラビティ」「バードマン」に続く3年連続の撮影賞を受賞しています。

この評価の通り、俳優の演技、映画の作り、撮影技術の3点が見どころになる映画です。

特に圧倒的な凄さを見せつけてくれるのが映像の迫力と美しさ。制作費が膨らんで大変だったとはいえ、費用をかけただけの成果を示せるあたりは、さすがルベツキとしか言いようがありません。私は新宿のIMAXで観ましたが、できるだけ大きなスクリーンでご覧になることをお勧めします。

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そしてディカプリオ。ここまでやらなければアカデミー賞を獲れないのか、と思わせる渾身の演技でした。前作「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で演じたチンピラ株屋をはじめ、「華麗なるギャツビー」はさておき「ジャンゴ」のレイシスト、「J・エドガー」のマザコンで同性愛者のCIA長官など、これまでも難しい役に取り組んできましたが、今回のような、文字通り“身体をはった”演技は初めてではないでしょうか。

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この作品のテーマの一つはサバイバルですので、主人公が生き延びるための苦難が繰り返し描かれます。たとえば食糧。ディカプリオ演じるヒュー・グラス(Hugh Glass)は、川で捕まえたばかりの生きた魚を食いちぎり、バッファローの腹腔内から取り出された肝臓にむしゃぶりつきます。生きることへの執着を示すシーンですから大切な要素といえますが、なんといってもディカプリオはベジタリアン。そんなことからもディカプリオの本気度が伝わってきます。

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物語の舞台は1820年代のサウスダコタ北西部。原住民の支配下にある土地で狩猟していた毛皮業者の一隊が、原住民の襲撃を受けて退却することになります。川を下ると待ち伏せされる可能性が高いということで、毛皮を隠して山越えするのですが、案内人を務めていたヒュー・グラスが山中でグリズリーに襲われて瀕死の重傷を負います。

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はじめはグラスを運んで逃げようとしますが、追っ手から逃れることが何より重要。ヘンリー隊長(William Henry Ashley。映画ではAndrew Henry)は、足手まといになったグラスにとどめを刺そうとしますが、どうしても手を下せません。結局、隊員のフィッツジェラルド(John Fitzgerald)とブリンジャー(Jim Bridger)、グラスの息子のホークをそこに残し、グラスが亡くなったらきちんと埋葬するように命令して、隊を先に進めることにします。

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もちろんフィッツジェラルドにも追っ手の恐怖があります。なかなか息絶えないグラスに苛立ち、自らの手で引導を渡そうとしますが、それをホークに見とがめられ、ホークを殺してしまいます。そうなったら、ぐずぐずしているわけにはいきません。水くみから戻ったブリンジャーに「追っ手が迫っている」とウソをつき、グラスを生き埋めにしてその場を立ち去ります。

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しかし、グラスは死んでいませんでした。実話では、6週間かけ、足を骨折したままカイオワ砦までの200マイル(320キロ強)を這って進んだそうです。映画では歩けることになっていますが、やはり苦難の中で生き延びて砦にたどり着きます。

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その精神力を支えたのは、息子の復讐を果たすという決心。
実際のグラスには子どもがいませんでしたし、持ち去られたライフルを返してもらっただけで、復讐はしなかったそうですが、そこはイニャリトゥ監督です。8月の出来事だったものを真冬の雪原に設定を変え、凍えるような極寒の中、熱い復讐心を頼りに生き延びていくグラスの情念を描き出します。

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それを支えているのが、冒頭でも記したルベツキが創り出す映像。地上数十メートルの高さから至近距離まで迫ったかと思えば、演者の吐息でレンズが曇る近さから表情を追い続けたり、縦横無尽にカメラを駆使して臨場感を盛り上げます。そこに、表情だけですべてを伝えられるディカプリオの演技力が組み合わさり、化学反応を起こした成果がすべて取り込まれた作品だと思います。

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フィッツジェラルドを演じたトム・ハーディ(Tom Hardy)は助演男優賞にノミネートされただけあって、ディカプリオに負けず劣らずの素晴らしい演技でしたし、ヘンリー隊長役のドーナル・グリーソン(Domhnall Gleeson)、ブリンジャー役のウィル・ポールター(Will Poulter)もなかなかの好演でした。

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イニャリトゥ監督作は、東京国際映画祭で初めて出会った「アモーレス・ペロス」をはじめ、「21グラム」「バベル」「BIUTIFUL ビューティフル」「バードマン」と全作観ていますが、作品ごとに雰囲気が変わります。本作では、エンディングがタランティーノ作品のような血みどろの展開になりますので、予めこころしてご覧になってください。

公式サイト
レヴェナント 蘇えりし者The Revenant

[仕入れ担当]