「秘密と嘘」「ヴェラ・ドレイク」でおなじみのマイク・リー(Mike Leigh)監督の最新作。以前の作品と同様、出演者の確かな演技力に支えられ、英国映画らしい、味わい深い作品に仕上がっています。
原題の Another Year を意訳すると「そしてまた一年」という感じでしょうか。初老の夫婦のこじんまりとした家を舞台に、それをとりまく人たちの1年を描いていきます。ベースにあるのは、これからも同じような一年が続いていく、という市井の人々の感覚です。
地質学者のトムと心理カウンセラーのジェリーは、市民農園で野菜を育て、料理も交代でするような仲睦まじい夫婦。30歳になる一人息子のジョーも、野菜の収穫を手伝いに帰ってくる温かい家庭です。
ジェリーの職場仲間のメアリーは、20歳のときの結婚が破綻してから男運に恵まれないと嘆く女性。愚痴をこぼしながらワインを飲みすぎてしまう、どこにでもいそうなシングル女性です。
ケンはトムの幼なじみ。最近のパブは若いやつばかりで行く気にならないと嘆く中年男性で、メアリーに興味を持っていますが、太り過ぎが災いして避けられています。メアリーと会話するシーンで着ているTシャツがチャーミングです。
メアリーはジョーに好意を持っているようですが、もしかするとトムとジェリーとジョーの幸せな家族に憧れているだけなのかも知れません。ずっと独身生活を謳歌していたジョーにガールフレンドができ、そのガールフレンドの明るく快活な様子を見て傷ついたりします。
そんなありふれた日常を切り取っていく中で、それぞれの登場人物のライフストーリーや、抱えている孤独が伝わってくる、そんな映画です。
マイク・リー監督は詳しい脚本を用意せず、俳優たちのアドリブをベースに作り上げていくそうですが、この「家族の庭」も舞台劇のような会話で構成されていて、それぞれの語りの妙を楽しむ映画でもあります。
中でもメアリーを演じたレスリー・マンヴィル(Lesley Manville)の独白のような長いセリフは(何度も「私は本当は聞き上手なの」というセリフを挟むあたりも)ウィットに富んでいて絶妙でした。
実生活のレスリー・マンヴィル、最初の結婚相手があのゲイリー・オールドマン(Gary Oldman)。その後、ジョー・ディクソン(Joe Dixon)という俳優と結婚して2004年に離婚したそうですが、現在はゲイリー・オールドマンとの間に出来た息子と暮らしているそう。メアリーのリアリティのある愚痴はそんな体験から出てきたのかなぁと思いながら観賞しました。
それから面白いと思ったのが、孤独を抱えた人たちはみんな酔っ払いの喫煙者で、自分で料理を作らないということ。幸福な家庭には、トムとジェリーのような健康的な生活が必要だとマイク・リー監督は言いたかったのでしょうか。ジョーのガールフレンドが菜食主義者(vegie:チーズは食べます)というのも、そのあたりの考え方とリンクしているように思いました。
この映画、春夏秋冬と四季を追うように物語が進んでいき、エンディングはクリスマスディナーのシーン。わかりにくいのですが、密かにクリスマス映画になっているのも洒落ています。
公式サイト
家族の庭(Another Year)
[仕入れ担当]