映画「17歳の肖像(An Education)」

1 久しぶりに映画のお話を。

ハイ・フィデリティ(High Fidelity)やアバウト・ア・ボーイ(About a Boy)等、軽快なタッチの小説で知られる英国人作家、ニック・ホーンビィ(Nick Hornby)が脚本を書いたというこの映画。彼の書く小説も、ヒュー・グラントが主演した「アバウト・ア・ボーイ」も好きなので、以前から楽しみにしていました。

オックスフォードを目指す優等生の女子高生・ジェニーが、年上の男性・デイヴィッドと出会って大人の世界を知り、現実を知って傷つきながら自分を見つめ直すというストーリー。リン・バーバー(Lynn Barber)という英国人ジャーナリストが文芸誌Grantaに寄せた自叙伝をニック・ホーンビィが脚色、「幸せになるためのイタリア語講座」のロネ・シェルフィグ(Lone Scherfig)が監督を務めています。

途中、ジェニーはジャズクラブや高級レストランの楽しさを知って道を踏み外してしまうのですが、原作がThe ObserverやThe Sunday Timesで活躍するジャーナリストの自叙伝ですから、最後どうなるか、たいていの人は推測できてしまうわけです。それでも映画の作りの良さと、ジェニー役のキャリー・マリガン(Carey Mulligan)の演技の巧さのおかげで、とても楽しめる映画になっています。

誰でも10代の頃には、垣間見る大人の世界に憧れを抱いたりしますよね。私も「この窮屈な世界から抜け出したい!」と思ってせっせと英単語を覚えていた高校生でしたから、彼女の気持ちはすごくよくわかります。まわりにジャズクラブなんてなかった(?)ので、せいぜい映画を観に行ったりする程度でしたが、外国への憧れも同じ。映画の中でジェニーが「大人になったらフランス人になる」と言うのですが、私も同じことを言っていた時期があって、映画を観ながら苦笑してしまいました。
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映画の設定が1961年なので、サルトルやボーヴォワールの実存主義の円熟期です。きっと英国人にとって、フランスは先進的で、かっこ良かったのでしょうね。ジェニーが最初にデイヴィッドの高級車に乗ったとき、「c’est chic」とつぶやくのですが、ラテン語が苦手科目のジェニーも、フランス語はかっこ良いから身に付いてしまうという時代。部屋でJuliette Grécoのレコードに合わせてSous le ciel de Parisを歌っていて、父親から怒られるシーンがあったり、そういう細かい設定や時代描写がいかにもニック・ホーンビィの脚本という感じがしました。
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ジェニーが惹かれる年上の男性・デイヴィッドを演じているのが、ピーター・サースガード(Peter Sarsgaard)。なんとも冴えない感じで出てきて、どうしてこんな男性に女子高生が惹かれるのかと思いましたが、要するに「善良な大人を演じる」という役どころなんですね。無精髭を生やした写真を見たら「あーこの人ね」という役者さんでした。ちなみにこの人、マギー・ギレンホール(Maggie Gyllenhaal)と結婚しています。

あと面白いのが、ジェニーが、小論文の先生役のオリヴィア・ウィリアムズ(Olivia Williams)に対して「ケンブリッジを出たって、先生になって、つまらない小論文を読むだけでしょ」と大学進学を否定するシーンがあるのですが、実生活ではオリヴィア・ウィリアムズも、校長先生役のエマ・トンプソン(Emma Thompson)も、さらにニック・ホーンビィも、みんなケンブリッジ卒。

それからデイヴィッドの友達のガールフレンド役のロザムンド・パイク(Rosamund Pike:下の写真の右。左は大人っぽくしたジェニー)。
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ジェニーに向かって「大学で何するの?英文学?本を読むの?」「大学生って何であんなに変なカッコしてるのかしら」「ラテン語なんて50年もするとなくなるって聞いたわ」といった発言を連発する蓮っ葉な女性役を演じているのですが、この女優さん、実はオックスフォードで英文学を学んだ人。こういうキャスティングも、ニック・ホーンビィ的なヒネリを感じました。

公式サイト
17歳の肖像An Education

[仕入れ担当]