カンヌ映画祭でグランプリを受賞した「預言者」、名作といわれながらハネケに敗れ無冠に終わった「君と歩く世界」に続き、「ディーパンの闘い」で念願のパルムドールを獲ったジャック・オーディアール(Jacques Audiard)監督。注目の最新作がようやく日本公開されました。
なぜ注目かといえば、パルムドールに続く作品という期待感の他、ジョン・C・ライリー(John Christopher Reilly)、ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)、ジェイク・ギレンホール(Jake Gyllenhaal)という実力派の俳優3人を結集したこと。特にホアキン・フェニックスは、彼が出演しているだけで名作の香りが漂ってしまうタイプの役者ですからキャスティングも大変でしょうし、他の2人も主役級の役者ですからスケジュール調整も難しそうです。
原作はカナダ人のパトリック・デウィット(Patrick deWitt)が2011年に発表した小説“シスターズ・ブラザース”で、どういう意味か図りかねる不思議なタイトルで気を引く作品なのですが、種明かしをすれば“シスターズ”は彼らの姓。要するにシスターズ兄弟のお話です。小説も映画も、この兄弟の個性の強さと性格の違いで楽しませるロードムービー的な作品です。
内容はといえば、名高い殺し屋であるシスターズ兄弟が、彼らの雇い主である提督から“あるもの”を盗ったハーマン・カーミット・ウォームを始末するため、ゴールドラッシュに沸くサンフランシスコに赴くというもの。ウォームの所在を探りに先んじて放たれたジョン・モリスと連絡をとりあって、ウォームから“あるもの”を取り返して抹殺することが今回の使命です。

映画のストーリーは小説の圧縮版ですが、大きく異なるのが兄弟の順番。小説では酒乱でキレやすいチャーリーが兄で、子どもの頃から彼を慕っていた太っちょのイーライが弟ですが、映画ではホアキン・フェニックスよりひとまわり年上のジョン・C・ライリーがイーライを演じるためか、兄と弟が逆転しています。つまり、イーライが兄で、ホアキン・フェニックス演じるチャーリーが弟。その関係で、弟が指揮官を仰せつかる話になってしまって若干チグハグですが、最初に本作の映画化権を獲得したのがジョン・C・ライリーの制作会社で、彼が主役を演じることが最初から決まっていたようですので、こうするしかなかったのでしょう。

物語の始まりは1851年のオレゴンシティ。馬小屋が焼け、馬を失ったシスターズ兄弟が、提督からもらった新しい馬で旅立ちます。今回の作戦から提督の命令でチャーリーが指揮官になると聞いて不機嫌になるイーライ。映画では触れませんが、チャーリーがもらった馬はニンブル(敏捷な)という名なのに自分の馬はタブ(太っちょ)と名付けられていて、その前から不愉快だったのです。

とはいえ、ずっとチームを組んできた2人ですから、文句を言いながらも信頼は厚く、デコボコ旅が続きます。途中、イーライが毒グモに刺されたり、馬がグリズリーに襲われたりといったトラブルに見舞われ、またイーライが生まれて始めて歯磨きの習慣を知り、歯磨きシーンが何度も象徴的に現れることになります。

彼らがメイフィールドという小さな町に辿り付いたとき、モリスが提督を裏切ってウォームと手を組んだことを知ります。このメイフィールド、土地を牛耳る権力者が自らの名前をつけた町で、小説では大勢の娼婦を住まわせている男性のホテルオーナーでしたが、映画では女性に変えられています。
このせいで、イーライの純愛ストーリーが割愛され、駄馬を大切にし、酔っ払ったチャーリーの世話をやき、女性を神聖視する彼の性格を説明する部分がなくなってエンディングの背景がわかりにくくなっているのですが、その代わりにジャック・オーディアールはラストシーンで特別な撮影技術を使い、まったく別の見せ場を作ってみせます。
それはさておき、モリスとウォームに追いついたシスターズ兄弟は、彼らなりの事情もあって、2人と行動を共にすることになります。なぜ協働することになるのか、それが何に帰結するのかは、ウォームが持つ“あるもの”の効能に関係するのですが、それに繋がる“ゴールデン・リバー”が邦題になっていることは、ある意味、ネタバレであり、ある意味、ミスリードでもあります。

この映画はいわゆる西部劇のスタイルを踏襲しながら、米国内では1シーンも撮影していないそうです。私も知らなかったのですが、スペイン南部には西部劇撮影用のスタジオがいくつもあって、本作では主にテキサス・ハリウッド(Fort Bravo)が使われたとのこと。場所的にはグラナダから見てシエラネバダの東側にあるタルベナスで、他にもミニ・ハリウッド(Oasys MiniHollywood)というスタジオがあるようです。

もちろん見どころは演技派俳優の共演。チャーリー役のホアキン・フェニックスはこのブログでも「ザ・マスター」「her/世界でひとつの彼女」「エヴァの告白」「インヒアレント・ヴァイス」「ビューティフル・デイ」「ドント・ウォーリー」とご紹介してきましたが、本作でも圧倒的な存在感です。イーライ役のジョン・C・ライリーは「ロブスター」での滑舌の悪い男の役も印象的でしたね。

モリスを演じたのは「ノクターナル・アニマルズ」の演技が記憶に新しいジェイク・ジレンホールで、ウォーム役はパキスタン系英国人のリズ・アーメッド(Riz Ahmed)。
その他、メイフィールド役で「リリーのすべて」「コレット」に出ていたレベッカ・ルート(Rebecca Root)、シスターズ兄弟の母の役で「アニー・ホール」のキャロル・ケイン(Carol Kane)が出演しています。

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