映画「君と歩く世界(De rouille et d'os)」

Rouille0 「エディット・ピアフ」のマリオン・コティヤール(Marion Cotillard)が主演ということで観に行くと、邦題からは全くイメージできないハードな内容に驚いてしまうかも知れません。

原題は(英題も)直訳すると「錆と骨」という意味。殴られたときに口中にひろがる味の喩えだそうです。

監督のジャック・オーディアール(Jacques Audiard)は、前作「預言者」でカンヌのグランプリを獲得しましたが、その前作のロマン・デュリス主演「真夜中のピアニスト」や、さらにその前作のヴァンサン・カッセル主演「リード・マイ・リップス」あたりからぐんぐん評価が高まってきた人です。

前の3作がフレンチノワール風のダークな雰囲気を醸しているのに対し、今回の「君と歩く世界」は、南仏の陽光を背景に、生き抜く力を強く訴える映画になっています。

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マリオン・コティヤール演じるステファニーは、アンティーブ(Antibes)のMarinelandでシャチの調教師をしています。緊張感の高い仕事をこなし、一見、自信に溢れた彼女ですが、密かに満たされないものを抱えていて、クラブで男を誘惑してトラブルを起こしてしまいます。

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それを介抱したのがクラブのガードマンをしているアリ。ドラッグの問題を抱えた前妻から息子を引き取ったものの、定職も生活基盤もなく、アンティーブで暮らす姉夫婦の家に転がり込み、格闘技の経歴でガードマンの職を得たばかりのシングルファーザーです。

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その後しばらくして、アリはステファニーから連絡を受け、事故で両足を失った彼女と再会します。身も心もボロボロになった彼女に対し、とりたてて憐憫を示すこともなく、淡々と再起を促すアリ。彼に支えられ、少しずつ自分を取り戻していくステファニー。

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アリは、まとまった金を得るため、闇で行われている賭け格闘技に参加します。ステファニーも当初は反対しますが、命がけで闘うリアルな世界に彼女も次第に惹かれていきます。肉体を危険に晒すことでしか生きている実感が得られないという意味で、2人は似た者同士なのです。

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とはいえ、ステファニーはアリを求めますが、アリは相変わらず他の女性と一時的な関係を持ちますし、いつまでたっても息子とどう接して良いかわからない感じです。

愛することを知らない故に、失うことを怖れないアリと、愛することを知ったことで、失ったことを受入れ始めるステファニーの物語と言えるかも知れません。最後にアリは失うことの怖さと愛を知るのですが、それは映画を観てのお楽しみ。

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強い身体性を感じるヒューマン・ドラマです。喪失と再生の物語に心が揺さぶられますが、だからといって泣ける映画ではありません。もちろん障碍者をダシに使ったお涙ちょうだい映画でもありません。主演の2人の自然な演技、美しい南仏の風景に引き込まれたまま終映を迎え、後でいろいろと考えさせられる映画です。

公式サイト
君と歩く世界Rust and Bone

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[仕入れ担当]