映画「シェイプ・オブ・ウォーター(The Shape of Water)」

00 ヴェネツィアの金獅子賞、ゴールデングローブ賞に続き、アカデミー賞も獲りましたね。監督賞は確実視されていましたが、作品賞は「スリー・ビルボード」ではないかと言われながら、結局、両方とも制覇してしまいました。2014年の「バードマン」以来でしょうか。どちらもメキシコ人監督というのは時代性なのかも知れません。

昨年に続いてアカデミー賞の司会を務めたジミー・キンメル、今年は時事ネタにセクハラ問題が加わり、オスカー像に際どいジョークを飛ばしていましたが、やはりマイノリティ問題は外せない部分で、黒人や女性が主人公のスーパーヒーローものなんて受けないと昔というか去年まで言われていたけどといったトークを繰り広げていました。当然、ギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)監督も、受賞スピーチで自らの出自に触れながら移民問題に言及していましたし、多くの登壇者がドリーマーへの支持を訴えていました。

この「シェイプ・オブ・ウォーター」も、主人公は障碍を持つ女性で、彼女が恋する半魚人はアマゾンから運び込まれたということで南米出身、そこに黒人女性やゲイといった弱者や、良心の呵責に悩むソ連のスパイとサディステイックな米国軍人が絡んでくるという点で一種の社会批判を孕んでいます。とはいえ「パンズ・ラビリンス」ほど毒はなく、ストーリー的にもシンプルで、若干のエログロはあるものの極めて真っ直ぐな作品です。

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時代は冷戦下の1962年、舞台は米国政府の研究施設。そこで清掃員をしているイライザは言葉が発せませんが、同僚である世話好きな黒人女性ゼルダの支えもあって、日々きちんと仕事をこなしています。また、隣人である画家ジャイルズのおかげで孤独にも陥らず、自分のペースで規則正しく暮らしています。

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ある日、研究施設に軍事機密のタンクが運び込まれ、その中には鱗で覆われた不思議な生き物が入っていました。アマゾンで現地人たちから神と崇められていたという半魚人です。その生き物に魅せられたイライザは、こっそり水槽がある部屋に忍び込み、茹で卵を与え、音楽を聴かせているうちに心が通じ合うようになります。半魚人も言葉を持ちませんので100%ノンバーバルのコミュニケーションです。

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しかし、そんな幸せな関係も終わりを迎えます。ソ連との宇宙開発競争の真っ只中である米国は、その呼吸器系のメカニズムを探るべく、半魚人の生体解剖を決定したのです。それを知ったイライザは、何とか半魚人を救いだそうと奔走します。といっても、協力してくれるのはゼルダとジャイルズしかいないのですが・・・。

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研究施設側では、警備担当のストリックランドが、個人的な恨みもあり、半魚人の解剖を成功させようと躍起になってます。ただ一人、ホフステトラー博士だけが生かしておくべきだと訴えますが、軍部のパワーには抗えません。また彼自身に他言できない秘密があり、それが半魚人への対応を難しくします。

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結局、博士の力添えもあり、間一髪で半魚人救出に成功します。とはいえ、上層部から圧力を受けているストリックランドは、何が何でも半魚人を始末しなくてはなりません。刻一刻とイライザに危機が迫ります。

そんな感じでイライザと半魚人の悲恋物語が展開していくのですが、ここでポイントになるのが、イライザを演じたサリー・ホーキンス(Sally Hawkins)がいわゆる美女ではないこと。半魚人も魔法が解けて王子様になったりしませんので、外見より中身が大切という思想が貫徹されます。そのあたりに監督のファンタジーに対する思いや主張が現れているような気がしました。

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その半魚人を演じたのはこの監督の作品には欠かせないダグ・ジョーンズ(Doug Jones)。ゼルダは「ヘルプ」「ドリーム」「ギフテッド」のオクタヴィア・スペンサー(Octavia Spencer)、ジャイルズは「扉をたたく人」のリチャード・ジェンキンス(Richard Jenkins)が演じています。

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また強面のストリックランドを「ドリーム ホーム」「ノクターナル・アニマルズ」のマイケル・シャノン(Michael Shannon)、ホフステトラー博士を「スティーブ・ジョブズ」「メッセージ」「女神の見えざる手」のマイケル・スタールバーグ(Michael Stuhlbarg)といった具合に実力ある俳優が並びます。このところ躍進中のマイケル・スタールバーグは、サリー・ホーキンスが注目を集めた「ブルージャスミン」にも出てましたね。

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彼らの演技もさることながら、やはりギレルモ・デル・トロらしい作り込みも見どころです。半魚人の特殊メークだけでなく、1962年らしい街並みから主人公の住居、その階下にあるノスタルジックな映画館まで、この監督ならではの世界観が存分に表現されています。

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また細かな演出、例えば主人公が乗ったバスの車窓を雨滴が一つにまとまりながら流れるシーンなど映画のタイトルからテーマまで一瞬で表現していて、さすがとしか言いようがありません。もちろんマデリン・ペルーが歌う"La Javanaise"をはじめ、劇中で使われるジャズナンバーも心地良い郷愁を誘い、映画の世界にどっぷり浸らせてくれます。

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それにしても、去年の「ラ・ラ・ランド」といい、こういう「古き佳きアメリカ」を取り入れた一直線な作品がアカデミー会員に支持されるというのは、米国人の心が疲弊しているからなのでしょうか。

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公式サイト
シェイプ・オブ・ウォーターThe Shape of Water

[仕入れ担当]