日本時間で今日発表される第89回アカデミー賞、史上最多タイの13部門14ノミネート(主題歌賞で2曲)されている作品です。黒人を描いた「ムーンライト」や「Fences」も期待されていますが、大方の予想では本作が作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、主題歌賞の大本命、主演女優賞や作曲賞まで獲りそうだといわれています。
それにしてもデイミアン・チャゼル(Damien Chazelle)はすごいですね。1985年生まれといいますから若干32歳。実質的なデビュー作だった「セッション」に続くこの2作目で映画界を席巻してしまいました。それも超ベタなハリウッド・ミュージカル。これまで多くの巨匠がミュージカルに挑戦してきましたが、ここまで大ヒットするのは稀だと思います。
レストランバーで演奏しているジャズピアニストのセブと、女優を夢見てワーナーブラザーズのカフェで働いているミアの恋物語。楽しくてちょっと切ない、王道を往くロマンスです。通ぶったミニシアターより大箱の映画館で観る方が気分が盛り上がります。
ラ・ラ・ランドのLaはロサンゼルス(L.A.)のことだそうで、スターを夢見て暮らすラ・ラ・ラの世界=ハリウッドといった感じでしょうか。そんなありきたりな設定も、チャゼル監督のよく練られた演出と素晴らしいカメラワークのおかげで、これだけの作品に仕上がってしまうのですからびっくりです。
まずオープニング。渋滞しているL.A.の高速道路で、ラジオから流れてきた“Another Day of Sun! ”に合わせて一人が踊り始めると、次々と車から降りて踊り出し、ヒップホップ風あり、モトクロスバイクで曲芸めいたことをする人ありの圧巻の6分間が繰り広げられます。これが単なるタイトルバックですから、この先いったい何が起こるのかと、否が応にも期待が膨らみます。
その渋滞の中にいたのがプリウスに乗ったミアと、古めかしいビュイックのオープンカーに乗ったセブ。エマ・ストーン(Emma Stone)演じるミアがもたもたしていると、ライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)演じるセブがクラクションを鳴らしながら追いこしていくという、これまたどこかで見たような展開で幕開けです。
その後、実力者との出会いを求めてパーティに出掛けて車をレッカー移動され、とぼとぼと夜道を歩いていたミアがピアノの音色に惹かれてレストランバーに入り、セブを見つけます。しかし、その日セブは、オーナーのセットリスト通りに演奏せず、好きなフリージャズを弾いたことで馘首を言い渡されてしまいます。
店から出て行くセブと、それに声を掛けようとして躊躇するミア。このすれ違いのシーンが後で効いてきます。
その後、2人は再会して恋に陥ちます。Lighthouse Cafeでホンモノのジャズを聴き、昔ながらの映画館やグリフィス天文台でデートし、それぞれの夢を語り合います。セブの夢は自分の店を持って好きな曲を演奏すること、ミアの夢はハリウッド女優です。
そんなミアにオーディションを受けるのをやめ、脚本を書いて自ら演じることを薦めるセブ。そしてセブは開店資金を作るため、自分の音楽とは方向性が違うバンドに入ってツアーに明け暮れます。
ご想像の通り、お互いの夢を実現するために始めたことが、2人の間にズレを生じさせていきます。そして5年後、2人は再会するのですが、それはもうハリウッドへのオマージュ溢れる夢のような世界に連なっていきます。
ミアが、ヘプバーンのようなサブリナパンツをはいていたり、いたるところにイングリッド・バーグマンのポスターが貼られていたり、古き佳きハリウッド映画への郷愁が散りばめられている作品です。
クライマックスも「カサブランカ」に絡めた場面から入って、ゴッホの名画“The Starry Night”を背景に「ミッドナイト・イン・パリ」の世界になだれこむといった具合。たくさん映画をご覧になっている方ならいろいろと楽しめる思います。
しかし、やはり見どころは主演の2人でしょう。「ブルーバレンタイン」「ドライブ」と地歩を固めてきたライアン・ゴズリング、「ヘルプ」「バードマン」と存在感を増してきたエマ・ストーン、共に演技力には定評ある人たちです。特にエマ・ストーンのあの大きな目に、じわっと涙が溢れてくるシーンにはぐっと引き込まれます。
この2人の他に「セッション」でアカデミー賞を受賞したJ・K・シモンズ(J.K. Simmons)がレストランバーのオーナー役で出ていたり、バンドのフロントマンの役でジョン・レジェンド(John Legend)が出て実際に演奏していたりします。
ちなみにミアが働くカフェで、グルテンフリーじゃないと言ってパンを返品する女性はチャゼル監督の恋人、オリヴィア・ハミルトン(Olivia Hamilton)ですが、2014年に離婚した元妻ジャスミン・マクグレイド(Jasmine McGlade)も本作のエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされているという、シンプルな物語に反して複雑な背景がありそうな作品でもあります。
といっても、映画そのものは明るさと楽しさに溢れる夢物語。どなたを誘っても安心して観に行けます。帰り道、頭の中に“Another Day of Sun! ”が流れてきて、公道で踊り出したりしないように気をつけてください。
公式サイト
ラ・ラ・ランド(La La Land)
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