映画「ブルーバレンタイン(Blue Valentine)」

Bv1 お互いに不満を抱えながら、それを表面化させれば日常が壊れてしまうことに気付いている夫婦の、愛の終わりを描いた映画です。監督のデレク・シアンフランセ(Derek Cianfrance)が12年かけて構想を練ったという脚本がとてもリアルで、観ているだけで登場人物の痛みが伝わってきます。

看護師として、また娘のフランキーの母親として、気忙しく暮らしているシンディ。夫のディーンは娘と家庭をとても大切にしていますが、朝からビールを飲みながらできる塗装の仕事をこなしているだけ。ディーンはシンディの慌ただしい生活に不満を抱き、シンディはディーンの向上心のなさに不満を抱いています。

そんなある日、シンディが柵の掛け金を締め忘れたことで飼い犬が逃げてしまい、車に轢かれて死んでしまいます。それをきっかけに、微妙なバランスで成り立っていた関係が少しずつ壊れ始め、ディーンは出会ったころの幸せな関係に戻ろうと二人で外泊することを提案しますが、結局、傷つけ合って破局に至ってしまうという物語です。

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愛の終わりに向かう現在のストーリーと、出会いから結婚に至る過去のストーリーが交互に描かれるスタイルですので、観客は主人公の内面にある「幸せだったあの頃」を追体験しながら、現在の危うい関係を観ることになります。現在の不穏なストーリーはREDカメラ(デジタル)の硬質な映像、過去の明るいストーリーは手持ちのスーパー16(フィルム)の暖かい映像に仕上げられていて、切なさが増幅される感じです。

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素晴らしかったのは、妻のシンディを演じたミシェル・ウィリアムズ(Michelle Williams)。アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされただけのことはあります。現在のディーンを演じるために髪を抜いて役に臨んだというライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)も良かったと思いますが、やはりミシェル・ウィリアムズのリアリティある演技でしょう。

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下はディーンのウクレレに合わせてシンディがタップダンスを踊るシーン。このミシェル・ウィリアムズの可愛らしさは見逃せません。

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音楽はGrizzly Bearですが、映画のタイトルはトム・ウェイツ(Tom Waits)の同名の曲からとったとのこと。別れたガールフレンドから毎年届くバレンタインカードを見てブルーになる男を歌った名曲ですね。忘れかけた過去は靴に入った小石のよう、という歌詞が、この映画のベースになっている感覚の隠喩になっているような気がします。

また、ディーンの左腕のタトゥーは、シェル・シルヴァスタインの「おおきな木(The Giving Tree)」からとったものだそう。すべてを捧げ尽くす「木」を描いたこの絵本と、ディーンの人生観を重ね合わせているわけですが、こういう細かい仕掛けを積み重ねて作り上げているあたりも、この映画を良質なものにしていると思います。

公式サイト
ブルーバレンタインBlue Valentine

[仕入れ担当]