映画「ミッドナイト・イン・パリ(Midnight in Paris)」

Midnight0 ウディ・アレン(Woody Allen)映画らしい理屈っぽい主人公を、「それでも恋するバルセロナ」のような名所巡り映画とうまく融合させた感じの映画です。そういった面で、昔からのウディ・アレン・ファンも、新しいファンも満足できる映画ですので、彼の作品で初めて興行収入1億ドルを超えたというのもうなずけます。

主人公はハリウッドで脚本家として成功しながらも、小説を書く夢を捨てられないギル・ペンダー。婚約者イネズの父親、ジョンのビジネストリップに便乗して、パリのブリストル(Le Bristol)に滞在しています。

ジョンは根っからのビジネスマン(どことなくSteve Ballmer氏っぽいノリ)で、妻のヘレンも米国の富裕層を絵に描いたような人物。この両親からすれば、ギルの文学志向は容認しがたいものですが、愛娘イネズが選んだ相手であり、経済的に成功しているということで、ギルの人格を認めているといった感じです。

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この4人の組み合わせだけでも十分に面白いのですが、偶然、イネズの友人であるポールとキャロルのベイツ夫妻と出会い、行動を共にすることになります。ポールはソルボンヌでの講演のためにパリに滞在しているという、これまた絵に描いたような、鼻持ちならないインテリ。ウディ・アレン映画には欠かせないスパイスですね。

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だからといってギルがパリに嫌気をさしているとか、米国に帰りたがっているかといえば、まったく逆で、このままパリに残って小説を書きたいと願っており、イネズから非現実的だと呆れられている次第です。

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ある晩、独りでパリの路地を歩いていたギルは、旧型のプジョーでやってきたグループに出会います。誘われるまま車に乗ると、着いた先は1920年代のパリ。紛れ込んだパーティで出会ったのはフィッツジェラルド(Fitzgerald)夫妻、主催者はコール・ポーター(Cole Porter)という、ギルの憧れていた世界そのものです。

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そしてフィッツジェラルド夫妻と訪れたビストロ・ポリドール(Le Polidor)で出会ったのはアーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)。自らの小説をヘミングウェイに否定されたゼルダは怒って出ていき、それを追ってスコットも出ていってしまったことで、ヘミングウェイと語り会うことになるギルですが、小説を読んで欲しいと頼むと、自分は読みたくないが、翌晩にガートルード・スタイン(Gertrude Stein)を紹介しようと言われます。

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その翌晩、イネズを誘い、小説を抱えてあの旧型プジョーを待ちますが、なかなか現れず、イネズは帰ってしまいます。しかし12時の鐘と共にプジョーが現れ、フルリュース通りのガートルード・スタインのサロンへ。そこでは、ピカソ(Pablo Picasso)の新作を巡ってガートルード・スタインとピカソが議論の真っ最中です。

議論されている絵は実際に1928年に描かれたLa Baigneuseという作品だそうですが、このピカソが本物そっくりで、この後に登場するダリ(Salvador Dalí)やら、マン・レイ(Man Ray)やら、さまざまな著名人が物まねコンテスト状態で登場するのも、この映画の見どころのひとつです。

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そしてパリの街並み。現代の街並みも美しく撮られていますが、やはり1920年代のパリの雰囲気が最高です。実際、ウディ・アレン自身もかなり昔、脚本家としてフランスに訪れて以来、パリの虜になったとか。

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主人公のギルも脚本家として、ハリウッドの悪口を言いまくりますし、フィッツジェラルドも晩年、経済的な理由でハリウッドの脚本家として苦労したそうですし、パリが好きなハリウッドの脚本家という共通項もありそうです。

出演者としては、ダリを演じたエイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)やガートルード・スタインを演じたキャシー・ベイツ(Kathy Bates)、ピカソの愛人役のマリオン・コティヤール(Marion Cotillard)あたりが有名どころですが、ヨーロッパ映画ファンとしては、古道具屋を演じたレア・セドゥー(Léa Seydoux)に注目でしょう。日本での公開作はほとんどありませんが、高評価の作品にいくつも出ていて、家柄的にも楽しみな女優さんだと思います。

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映画ポスターのモチーフにゴッホのThe Starry Night(De sterrennacht)が使われているように、さまざまなアートが随所で取り上げられます。またモネ(Claude Monet)の巨大な睡蓮を見るオランジュリー美術館(Musée de l’Orangerie)や、ギルとポールが議論し、観光ガイド役のカーラ・ブルーニ(Carla Bruni)が登場するロダン美術館(Musée Rodin)など、観光スポットもふんだんに出てきます。

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素直にパリっていいなぁと思える楽しい映画です。パリが好きな方なら、劇中、何度も耳にするコール・ポーターのLet’s Do It(Let’s Fall in Love)を口ずさみながら、明るい気分で映画館を後にできると思います。

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