マドリード出身のフェルナンド・レオン・デ・アラノア(Fernando Leon de Aranoa)監督が、2年前のゴヤ賞で脚色賞(主要な賞は「しあわせな人生の選択」が独占)を受賞した作品です。以前もゴヤ賞で監督賞など獲っているベテラン監督なのですが、おそらく日本で一般公開されるのは本作が初めてでしょう。ウガンダの少年兵のドキュメンタリー作品もある社会派の監督です。
物語の舞台は1995年のバルカン半島。場所は特定されていませんが、停戦直後ということですからクロアチアかボスニアあたりでしょう。国境なき水と衛生管理団(water and sanitation, Aid Across Borders)というNGOのスタッフたちが、井戸に投げ捨てられた死体を引き揚げるロープを探し回るうちに、紛争地域の厳しい現実に触れていくというお話です。
砂埃をあげて爆走する車に乗っているのは、NGOスタッフのBとソフィ。そこに突然現れるのが、路上に横たわる牛の死体。左右どちらかに避ければ、そこに地雷が仕掛けられているというわけです。何度も修羅場を抜けてきたBは、いっとき躊躇しながらも覚悟を決めて車で牛の上を乗り越えます。新任のソフィが悲鳴をあげようが構っていられません。
彼らが向かった先で待っていたのは、同僚のマンブルゥと現地人通訳のダミール。死体を井戸から引き揚げていたロープが切れてしまったのでBに手伝いを頼んだのです。
Bとダミールを乗せた車はロープを探しに、マンブルゥとソフィーを乗せた車はブリーフィングを聞くために国連軍のキャンプへ向かいます。
Bたちは近くの村落で荒物屋を見つけてロープを買おうとしますが、店主は拒否。おまえらに売るロープはないというわけです。外国人に協力したくないのか、はたまた死体を引き揚げさせたくないのか、理由は明らかになりませんが、いずれにしてもロープは手に入りません。
一方、マンブルゥたちは、偶然、路上で苛められていた子どもニコラを助け、彼を拾ってキャンプに向かうのですが、道すがら目にしたのは給水車で水を売りさばいている一団。住民たちは水がなくては生きられませんので、高値でも文句を言いながら買い求めています。井戸が使えなくなったので水を売りに来たのか、水を売りたくて井戸を使えなくしたのか、不信感を抱えてキャンプに到着します。
駐車場で他のスタッフから“ロシア系美女の検査官が来ている”と聞き、嫌な予感がしたマンブルゥが上司のゴヨに訊ねると、案の定、その検査官というのは彼が関係をもったことがあるカティア。物語の本筋から言えば、どうでも良い話なのですが、マンブルゥの悩みの種が増えて話が膨らみ、彼の人間性や他者との係わり方が見えてくるわけです。
ちなみにこの映画、紛争地域と同じく登場人物が多国籍ですので会話はほぼ英語ですが、マンブルゥ役をベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)、ゴヨ役をセルジ・ロペス(Sergi López)が演じている関係でこの場面だけスペイン語になります。
憂鬱になりながら指揮官のブリーフィングに参加すると、そこで井戸の一件をないがしろにされ、憤ったソフィが“井戸の死体には爆発物が仕掛けられている”と挑発してしまいます。これが後々、厄介な問題を引き起こすことになるのですが、それはさておき、勝ち気なソフィと訳ありのカティアを同乗させたマンブルゥは、ニコラの案内で、彼の実家にロープを取りに行くことになります。
ニコラは、紛争が激しくなった際に両親が祖父に託した子どもで、それ以来、実家に帰っていません。ですから、マンブルゥのロープ探しをきっかけに実家へ帰りたくて仕方ないのです。
ということで、Bとダミールを乗せた車と合流した4人はニコラの実家に向かい、そこでいろいろあった末に何とかロープを入手し、さらに別の問題を一つ乗り越えて、ようやく井戸に戻ってきます。
もちろんそこで話は終わりません。結論を言ってしまえば、紛争地域で部外者は無力だということ。現地人が気持ちと力を合わせ、天が味方して、ようやく物事が進展するものなのでしょう。原作となった“Dejarse llover”を書いた作家パウラ・ファリス(Paula Farias)は、国境なき医師団で活躍した医師だそうで、その実体験がこの作品全体にある宿命を受け入れる感覚、ある種の諦念に通じているのだと思います。
主な出演者としては、B役は「あなたになら言える秘密のこと」のティム・ロビンス(Tim Robbins)、ソフィ役は「海の上のピアニスト」でティム・ロビンスが惹かれる美女を演じたメラニー・ティエリー(Mélanie Thierry)、カティヤ役は「007 慰めの報酬」「トゥ・ザ・ワンダー」のオルガ・キュリレンコ(Olga Kurylenko)、ダミール役は「最愛の大地」に出ていたというフェジャ・ストゥカン(Fedja Stukan)といったところでしょうか。
作品そのものとはあまり関係ないかも知れませんが、この映画、バズコックスやラモーンズのパンクがかかったり、ルー・リードやヴェルヴェット・アンダーグラウンドが使われていたり選曲が独特です。途中で流れるSweet Dreams (Are Made of This) もオリジナルではなくマリリン・マンソンのカバーで、不穏な空気感を強調します。
とはいえ、エンディングはマレーネ・ディートリヒが歌う“Where Have All the Flowers Gone”で手堅く締めます。彼女はこの反戦歌を英語、フランス語、ドイツ語で歌ったそうですが、フランス語版を最初に披露したのはUNICEFのコンサートだったということです。
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