スペインで最も権威ある映画賞、ゴヤ賞で2016年度の主要5部門に輝いた作品です。作品賞、監督賞、脚本賞を制覇するパターンは多いのですが、それに主演男優賞と助演男優賞が加わるのは珍しいと思います。
この説明でおわかりのように、主役フリアンを演じたリカルド・ダリン(Ricardo Darín)、その旧友トマスを演じたハビエル・カマラ(Javier Cámara)の演技が見どころのバディムービーです。
リカルド・ダリンは2010年アカデミー賞で外国映画賞を獲得した「瞳の奥の秘密」主演の他、「ホワイト・エレファント」「人生スイッチ」で味のある演技を見せているアルゼンチンを代表する俳優。ハビエル・カマラは「トーク・トゥ・ハー」の看護師役で有名なスペイン俳優で、最近ではオカマのCAを演じた「アイム・ソー・エキサイテッド!」で2013年ラテンビート映画祭に来日し、舞台挨拶に立っていました。
物語は、癌で余命宣告を受けたフリアンの元にカナダで暮らすトマスが訪れ、一緒に4日間を過ごすというもの。なぜトマスがわざわざマドリードに飛んだかというと、フリアンの従姉妹のパウラを通じて、彼が延命治療を拒否したことを知ったから。ちなみにパウラを演じたアルゼンチン女優、ドロレス・フォンシ(Dolores Fonzi)は、ガエル・ガルシア・ベルナルの元妻です。
映画の幕開けはトマスがまだ寝ている娘と息子、そして妻に声をかけて家から出て行くシーン。スペイン映画だと思って観ていると、こんなに雪が積もっているというと舞台はピレネーあたりかと勘違いしそうになりますが、後々、トマスがカナダの大学で教えていることがわかります。
場所は示されませんが(ロケ地はマニトバ州ウィニペグ)、家庭内で英語を喋っていることから、フランス語圏ではなく、妻もスペイン人ではないという設定だと思います。つまり彼がスペインを出てから築いた家庭だということ。これは後の1シーンで微妙に絡んできます。
マドリードに飛んだトマスは、何の前触れもなく、フリアンの家に訪れます。ほんの少し驚きながら気さくに受け入れるフリアンの表情で、彼らの関係が一瞬にして伝わってくる場面です。舞台俳優のフリアンと大学教員のトマスという二人ですから、仕事関係の繋がりではなく、幼なじみか学友として長く付き合ってきたのでしょう。
フリアンはトルーマンと名付けた老犬を飼っています。原題でわかるように、実は重要なテーマでもあるのですが、そのブルマスティフ種の犬を自分の代わりに飼ってくれる養親を募集中。フリアンと再会したトマスは、彼に付き添って獣医と彼の主治医を訪ね、そこで観客はフリアンの病状や彼の置かれている状況を詳しく知ることになります。
その後トマスは、フリアンの職場である劇場関係者や、犬の引き取り手の候補者たちと会い、またフリアンの従姉妹のパウラや元妻のグロリアとも会います。
そして彼の息子である大学生のニコを訪ねてアムステルダムに飛ぶのですが、おそらくここが最も盛り上がる場面でしょう。逆に言えば、この場面以外は日常の情景を積み上げ、旧友同士の心の交流を丹念に描いていくだけです。そういう意味で、キャスティングの時点で完成度が決まってしまうタイプの作品だと思います。
率直に言って、ゴヤ賞5部門はやや過大評価ではないかと思いますが、あまり期待し過ぎずに観れば、二人の演技がじわっと染みてきて、なかなか良い映画だと思います。
監督を務めたセスク・ゲイ(Cesc Gay)は、1998年にコメディ映画「Hotel Room」でデビューした1967年バルセロナ生まれの男性。脚本を書いて自ら監督するスタイルでコンスタントに作品を生み出しており、本作が8作目だそうです(うち1作はアルベルト・プラの同名アルバム用ビデオのようですが・・・)。
なお、この監督の2006年の作品「Ficció」(フィクションという意味)にはハビエル・カマラが出演しており、2012年の「Una pistola en cada mano」(両手に銃という意味)にはリカルド・ダリンとハビエル・カマラの他、レストランで出会う旧い仲間ルイスを演じたエドゥアルド・フェルナンデス(Eduard Fernández)も出ています。エドゥアルド・フェルナンデスは「スモーク アンド ミラーズ」主演の他、「BIUTIFUL ビューティフル」「私が、生きる肌」「エル・ニーニョ」などに出ているベテラン俳優です。
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しあわせな人生の選択(Truman)
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