ラテンビート映画祭「ホワイト・エレファント(Elefante Blanco)」

Elefante0 一昨日から新宿バルト9で始まった第9回ラテンビート映画祭。今年もユニークなラインナップで興味津々ですが、私が初日に観てきたのがこの「ホワイト・エレファント」です。

※新宿では、今日(9/29)と明後日(10/1)にも上映される予定になっています。

一昨年公開の「瞳の奥の秘密」で日本でも知られるようになったアルゼンチンの名優、リカルド・ダリン(Ricardo Darín)の主演で注目のドラマですが、ストーリー的にはジェレミー・レニエ(Jérémie Renier)が主役なのかも知れません。「少年と自転車」で情けない父親を演じていたジェレミー・レニエ、この「ホワイト・エレファント」でも迷える神父を好演しています。

物語の舞台は、アルゼンチン・ブエノスアイレスのスラム。南米最大規模の病院を構想して着工し、1930年代に工事が中断したままになっているホワイト・エレファント(Elefante Blanco)と呼ばれる建物やその周辺に暮らす人々を、リカルド・ダリン演じるフリアン(Julián)、ジェレミー・レニエ演じるニコラス(Nicolás)という二人の神父と、マルティナ・グスマン(Martina Gusman)演じるソーシャルワーカーのルシアナ(Luciana)を軸に描いていきます。

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アマゾンでの布教活動に失敗し、近しい信者を皆殺しにされて身体と心に傷を負ったベルギー人神父ニコラス。スラム地区で活動している旧知の神父フリアンに誘われ、彼の教区で一緒に活動を始めます。実はフリアン、脳に不治の病いが見つかり、ずっと手掛けてきたスラム再興を託せる後継者を求めていたのです。

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麻薬がはびこり、縄張り争いで日常的に銃撃事件が起こるスラム地区。生活改善のため、住居の開発プロジェクトが推進されていますが、工事に携わっている住民に対する賃金の不払いがあったり、トラブルも山積みです。住民たちの不満については、ルシアナが行政との橋渡しを行い、フリアンが教会を通じて建設会社との橋渡しをしています。

警察との衝突や住民同士の対立に対処しながら、スラム再興に力を注ぐフリアンとニコラスですが、住民のためなら何でもしたいと思うニコラスと、公的な立場をわきまえて支援すべきというフリアンはぶつかり合います。

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フリアンにはスラム再興だけでなく、スラムに貢献し、1974年に暗殺されたカルロス・ムヒカ(Carlos Mujica)の列聖手続きの仕事もあります。自らの最期を意識して焦るフリアンと、自らの立ち位置を決められないニコラス。そんなニコラスの心の支えになるのがルシアナで、ニコラスはカトリックの聖職者という立場を忘れてルシアナに惹かれていきます。

スラム住民たちの生活感と、路地のシーンを長回しで追うなどカメラワークの巧みさが印象に残る作品です。ただ、一本の映画としては、いろいろなネタを盛り込み過ぎて収集がつかなくなっている印象がありました。ガーディアン紙では、「シティ・オブ・ゴッド」を彷彿させる、と評されていましたが、あれほどの躍動感もなかったと思います。

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物語の背景となっているカルロス・ムヒカの史実を知らないと理解できない部分があるのかと思ってwikipediaの記事を読んでみたのですが、やはりピンときませんでした。脚本と編集がしっかりしていれば、かなり良い作品になったのではないかと思わせる部分があるだけに、ちょっと残念な気がします。

公式サイト(ラテンビート映画祭2012の紹介ページ)
ホワイト・エレファント

Lbff

[仕入れ担当]