ラテンビート映画祭「スモーク アンド ミラーズ(El hombre de las mil caras)」

00 2015年のゴヤ賞で最多10部門を制し、このモナドのブログでも大絶賛(!)だった「マーシュランド」の監督、アルベルト・ロドリゲス(Alberto Rodríguez)の最新作です。

この邦題、多くの方が疑問に思ったのではないでしょうか。英題の“Smoke & Mirrors”は、マジックショーなどで煙や鏡を使って目くらましすることなのですが、それをカタカナに置き換えただけという、かなりダメなパターンですね。ちなみに原題は“千の顔を持つ男”という意味で、原作となったマヌエル・セルドン(Manuel Cerdán)の“Paesa: El espía de las mil caras”(パエサ:千の顔を持つスパイ)からとられています。

しかし、邦題がダメでも映画そのものは、さすがアルベルト・ロドリゲス!と思える質の高さ。前作はセビリアの気候風土にインスパイアされた創作でしたが、本作は実話ベースの作品で、1990年代に起きた政治事件をスリリングなサスペンスドラマに仕立て上げています。

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主人公であるフランシスコ・パエサ(Francisco Paesa)は事件後に姿を消し、1998年に姉妹から死亡広告が出されますが、2005年にパリでマヌエル・セルドンのインタビューを受けて生存が確認されます。本作はそこで彼が語ったことを軸に作られているのですが、千の顔を持つ手練手管の人物ですから、真実を語ったかどうか怪しいところで、映画の冒頭でも“これは脚色されたストーリーである”と敢えて宣言しているくらいです。

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その事件というのは、治安警察(Guardia Civil)のトップだったルイス・ロルダン(Luis Roldán)が公金を横領して国外に逃亡し、それをパエサが手助けしたというもの。スペインではロルダン事件(Caso Roldán)と呼ばれて、よく知られているそうです。

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Guardia Civilというのは警察というより軍に近い組織なのですが、なぜ、ロルダンがパエサの協力を求めたかというと、パエサはずっと国際的に暗躍してきた人で、ETA(バスク独立を目指すテロ組織)撲滅を目的に設立された反テロ組織であるGALに関与したり、自らの武器密輸ネットワーク通じてETAに発信器を仕込んだ地対空ミサイル2台を売りつけ、ETAに大きな打撃を与えたソコア作戦(Operación Sokoa)を主導したり、さまざまな政府の秘密作戦にかかわっていたからです。

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映画ではETAにミサイルを売りつけるシーンがさらっと描かれるだけですので、このような前提が日本人にはわかりにくいかも知れませんが、裏社会で生きてきた人物だと理解していれば問題ありません。映画は事件が終わって彼が姿をくらます直前の場面から始まり、その後、時間軸に沿ってロルダン事件をなぞっていく展開で、それをパエスの協力者だったパイロットのヘスス・カモエス(Jesús Camoes)が語るという構成になっています。

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主人公のパエサ(通称パコ)を演じたのは「BIUTIFUL ビューティフル」「私が、生きる肌」「エル・ニーニョ」などで要となる役を演じてきたエドゥアルド・フェルナンデス(Eduard Fernández)。本作で、今年のサン・セバスティアン映画祭の最優秀男優賞を受賞しています。

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相棒のヘスス役は「悪人に平穏なし」で主役の警官を演じてゴヤ賞を獲得したホセ・コロナド(José Coronado)、逃亡するロルダン役は「雨さえも」に出ていたカルロス・サントス(Carlos Santos)、ロルダンの妻の役で「EVA エヴァ」「プリズン211」のマルタ・エトゥラ(Marta Etura)が出ています。

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ヒトもカネも国際的に動いたこの事件、映画でもマドリードやパリといった欧州の都市のみならず、シンガポールやバンコクといったアジア各地が舞台になります。パエサはアジアに精通していたようで、2004年のEl Mundo紙によると、スカルノ死後のデヴィ夫人と交際していた時機もあったようです。

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El hombre de las mil caras
Latin Beat Film Festival: スモーク アンド ミラーズ

[仕入れ担当]