ラテンビート映画祭「エル・ニーニョ(El Niño)」

Nino0 日本では2009年のスペイン映画祭で「第211号監房」という題で上映され、その後「プリズン211」という題でDVDリリースされた、ダニエル・モンソン(Daniel Monzón)監督のCelda 211は、2010年のゴヤ賞を総なめにした名作でした。

その監督と主演男優のルイス・トサル(Luis Tosar)が再びタッグを組んだということで話題になった本作、原題のみだとわかりにくいかも知れませんが、気象現象とは関係なくて、ニーニョというニックネーム(スペイン語で男の子の意味)の若者を軸に展開するサスペンスです。

スタートは港湾のコンテナターミナルでの荷揚げシーン。巨大な重機がシステマチックに動作する無機的な様子がどことなく不穏な空気を漂わせます。地上に降りてきた重機オペレーターが乗り込んだ車を、男女2人組が車で追跡。ジブラルタルに入っていくあたりで、この映画の舞台がスペイン南端、アンダルシアの港町だとわかります。

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重機オペレーターを追った男女2人組は麻薬捜査官で、男性ヘススを演じているのがルイス・トサル、女性エヴァを演じているのがバルバラ・レニー(Bárbara Lennie)。アルモドバル監督の「私が、生きる肌」で、フラワープリントのワンピースを拒絶する店員役といえばおわかりになるかも知れません。

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一方、主人公のニーニョとその幼なじみのコンピは、ジブラルタルに隣接するカディスの街、ラ・リネア・デ・ラ・コンセプシオン(La Línea de la Concepción)で暮らす若者です。ニーニョを演じたのがヘスス・カストロ(Jesús Castro)、コンピを演じたのはヘスス・カロッツァ(Jesús Carroza)。

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やたらにヘススという名が出てきますが、これは英語のジーザスのことでスペインでは多い名前です。ついでに書けば、コンセプシオンは受胎という意味で、当地にはSantuario de la Inmaculada Concepción(≒処女懐胎聖堂)という施設もあり、いかにもスペインらしいカトリック由来の地名です。

それはさておき、ニーニョとコンピは、漁船の手伝いをしたり、小型船舶の試運転をしたりして日銭を稼いでいるのですが、近いうちに結婚したいと思っているコンピは、まとまったお金を手に入れてビーチで店を始めようとニーニョに持ちかけます。

その手段は麻薬の密輸。麻薬業者の元締めとの窓口になる、友人のモロッコ人ハリルを紹介し、3人で密輸を始めることになります。

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最初は渋っていたニーニョでしたが、密輸は意外に簡単で、またハリルの姉のアミナに惹かれ始めたこともあって、次第に麻薬の密輸が常態化していきます。そんな折、欲を出してもう少し大きな取引をしようとしたばかりに、それまでとは違った世界に足を突っ込むことになり、大きなリスクを負います。

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捜査官の側でも、捜査情報の漏洩があったり、指揮系統や人間関係のもつれがあったり、これまたスペインらしい内紛が巻き起こるのですが、それでもルイス・トサル演じるヘススを中心に麻薬密輸の大物を追い詰めていきます。

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この大物、ジブラルタルに拠点を持つ英国人の役でイアン・マクシェーン(Ian McShane)が出ていたり、捜査官役で「タンゴ・リブレ」他の人気俳優セルジ・ロペス(Sergi López)や、「私が、生きる肌」のエドゥアルド・フェルナンデス(Eduard Fernández)が出ているあたりも見どころですが、やはりニーニョを演じた新人、ヘスス・カストロがいちばんの注目ポイントでしょう。

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映画そのものは、捜査官たちとニーニョたちという2つの立場を並行して描いたことで、やや散漫になった感がありますが、それでもダニエル・モンソンらしい盛り上げで、十分に楽しめる作品に仕上がっています。また、舞台となったモロッコとアンダルシアのエキゾチックな風景も視覚的に楽しませてくれます。

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そして、インディア・マルティネス(India Martínez)が歌うテーマ曲"Niño sin miedo"(≒怖いもの知らずの子ども)にフィーチャリングされているライの歌い手は、アラブ・ロックの大御所、ラシッド・タハ(Rachid Taha)。これが映画の世界観にぴったり馴染んでいて、この監督ならではのセンスだと思いました。

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公式サイト
El Niño ※国内向けDVDでは「ザ・トランスポーター」という題名になっているようです

[仕入れ担当]