35年前に公開され、SF映画の金字塔となった「ブレードランナー」の続編です。これほど長い期間を経ているにも関わらず、メディアなどの熱狂ぶりから、多くのファンが待ち望んでいた作品だということがわかります。
私は、といえば、実はオリジナルを観ていなくて、先月、丸の内ピカデリー爆音映画祭で上映された「ファイナルカット版」で予習したばかりの“にわか仕込み”です。
本題とはズレますが、この爆音映画祭という企画、たいへんお勧めです。音響を精緻に調整することで新たな観賞体験を提供するというもので、私が観た「ファイナルカット版」も前世紀の作品とは思えないほどの臨場感でした。
今回の「ブレードランナー 2049」も映像だけでなく音響も大切だと思い、新宿まで出掛けてTCXとDOLBY ATMOSの組み合わせで観てきたのですが、これが大正解。明らかに、家庭ではなく劇場で観るべき映画です。できる限り良い設備の映画館でご覧になることを強くお勧めします。
ついでに記しておくと、前作を観ずに、または前作を忘れてしまった状態で「ブレードランナー 2049」を観ても面白くないと思います。主演がライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)ということで、彼を目当てに映画館に足を運ぶ人が多そうですが、前作を知らずには理解できない物語です。
さて、本作は続編ということで、オリジナルの内容を継承しているわけですが、前作の主人公リック・デッカードを演じたハリソン・フォード(Harrison Ford)と、同僚の捜査官ガフを演じたエドワード・ジェームズ・オルモス(Edward James Olmos)だけが共通する出演者です。ハリソン・フォードは、こういっては失礼ですが、だいぶ演技がうまくなった印象、エドワード・ジェームズ・オルモスは風貌が変化していて、折り紙がないと気付かないと思います。
また、前作のヒロインであるレイチェルは、本作の核となる非常に重要なキャラクターですが、ショーン・ヤング(Sean Young)の旧い映像を被せたボディダブルが出てくるのみで、本人はスクリーンに現れません。
映画の幕開けは前作と同じく瞳のクローズアップで、それに続くのは一面に温室が立ち並ぶ広大な農地の空撮。ロケ地はスペイン・アルメリアのエル・エヒド周辺(map)だそうですが、ここではウォレス社が開発した手法で合成食料が栽培されているという設定です。そのウォレス社というのが、前作のタイレル社から事業を引き継いで新型アンドロイドの製造を手がけている企業で、代表が科学者のニアンダー・ウォレス、そのアシスタントであるレプリカントがラブです。
前作では、タイレル博士やレイチェルはおろか、リック・デッカードが倒すことになるネクサス6型レプリカント4体も完全な悪役とは言い切れず、後味を曖昧なものにしていましたが、本作では主人公のブレードランナーであるKと、ウォレス社が明確に敵対することになります。つまりKとラブが死闘を繰り広げる物語です。
Kはリック・デッカードと異なり、自らがレプリカントであることを知っています。ですから、自分がもつ記憶も、どこかで合成され、埋め込まれたものだと理解しています。ところが、ひょんなことからその記憶がリアルなものではないかと疑いはじめ、その鍵を握るリック・デッカードを探し求めるわけです。
そのKを演じたのがライアン・ゴズリング。ちょっとネタバレになってしまいますが、想いが報われない役がよく似合いますね。表情の端々から伝わってくる切なさがとても良い感じです。もちろんリック・デッカード役はハリソン・フォード。ブタペストで撮影されたという彼の隠れ家は、打ち捨てられたカジノという設定で、彼のこれまでの生活をわかりやすく伝えています。
対するウォレスを演じたのが「ダラス・バイヤーズクラブ」のジャレッド・レト(Jared Leto)。ラブを演じたのが、「鑑定士と顔のない依頼人」でクレア役だったシルヴィア・フークス(Sylvia Hoeks)。オランダ出身の元モデルですが、このところアクション系の作品が続いており、「ドラゴン・タトゥーの女」の続編への主演が決まっているようです。
Kの上司、警部補ジョシを演じたのは、このブログでも「50歳の恋愛白書」から始まって「声をかくす人」「ドラゴン・タトゥーの女」「美しい絵の崩壊」「誰よりも狙われた男」「エベレスト 3D」とご紹介してきたロビン・ライト(Robin Wright)。記憶デザイナーのアナ・ステリン博士を演じたのはカーラ・ジュリ(Carla Juri)というスイス出身の女優で、たぶん日本公開作はないと思います。
そして、Kの仮想の恋人、ホログラフィーで作られた美少女ジョイを演じたのが、キューバ出身のアナ・デ・アルマス(Ana de Armas)。ドゥニ・ヴィルヌーヴ(Denis Villeneuve)監督は、ジョイという役はピノキオにおけるジミニー・クリケットだと説明していましたが、Kの良心であり、保護者兼指導者として彼を導いていく重要な役割を担います。
監督がコオロギの喩えを出したのは、前作の原作小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の冒頭で、主人公デッカードが同じ高層住宅の住人バーバーから言われる言葉に繋がっているのかも知れませんね。
このキャスティングでおわかりのように、メディアにはライアン・ゴズリングとハリソン・フォードの映画のように取りあげられていますが、実際は女性が軸になる映画です。
その大元であるレイチェルの存在は、創世記に登場するヤコブの妻ラケル(Rachel)に重ね合わされていて、女性性や家族の関係性を追求するスタイルも、キリスト教的な下地もドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしさの現れといえるでしょう。
「静かなる叫び」「灼熱の魂」「複製された男」「ボーダーライン」「メッセージ」の監督が、「ブレードランナー」の続編を手がけると聞いたときは意外な気がしましたが、観賞し終えてみれば納得できる作品でした。
これまた少しネタバレになりますが、本作も前作同様、その後を期待させるエンディングになっています。ハリソン・フォードの年齢を考えると、あまり間隔を空けられないと思いますが、この女性たちがこれからどういう方向に進んでいくのか気になるところです。
公式サイト
ブレードランナー 2049(Blade Runner 2049)
[仕入れ担当]