ジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore)監督といえば「ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」、最近では「シチリア!シチリア!」あたりのイメージでしょうか。本作はそれらとはちょっと異質な、ミステリー仕立てのドラマです。監督自身が執筆した小説が原作で、その邦訳も人文書院から出ています。
物語の主人公は、美術鑑定士のヴァージル・オールドマン。映画の序盤で63歳の誕生日を迎える初老の独身男性です。
世界最高レベルの鑑識眼を持ち、オークショニアとしても第一線で活躍する人物ですが、常に手袋を外さないほどの潔癖症で、女性に対しても畏敬が恐怖に変わったという臆病なところがあります。
彼のもとに、クレアという若い女性から鑑定依頼が舞い込みます。資産家の両親が亡くなり、屋敷の美術品や家具を査定して欲しいというものですが、その依頼人女性は常に理由をつけて彼の前に姿を現しません。両親の使用人だったという男性でさえ、何年も彼女の姿を見ていないことを知り、ますます好奇心が高まる鑑定士。
結局、クレアが籠った部屋のドア越しの会話に飽き足らず、屋敷から出て行ったふりをして彫像の影に隠れていて、部屋から出てきた彼女の姿を見てしまいます。そして、さらに彼女に惹かれていくのですが、この老いらくの恋はどうなるのか、彼女が姿を見せなかった理由は何なのか、観客の気持ちを掴んだまま、最後のどんでん返しまで引っ張っていきます。
屋敷の地下室で拾う機械部品、向かいのカフェにいる小人の女性、使用人である足の不自由な男性など随所に仕掛けが施され、巧みに謎解きの鍵を隠しながら物語が進んでいきます。親友ビリーとの会話で伏線が張られますので、人によっては結末が見えてしまうかも知れませんが、それでも十分に満足できる作品だと思います。
さまざまな場面で絵画が登場するのもこの映画の特色で、オークションで売買される作品以外にも、ヴァージルの部屋に飾られた肖像画にはルノアールやゴアの作品が見えますし、クレアの部屋の壁にはトロンプ・ルイユが描かれていて、絵画がその場面の状況を補足する感じです。
主人公のオークショニアを演じたのは「英国王のスピーチ」でライオネル・ローグ役だったジェフリー・ラッシュ(Geoffrey Rush)、ビリーを演じたのが「ハンガー・ゲーム」のスノー大統領、ドナルド・サザーランド(Donald Sutherland)で、この2人の演技力が何より際立っていました。
ちなみにこの映画、骨董品の修復屋を演じたジム・スタージェス(Jim Sturgess)、オークショニアの秘書を演じたダーモット・クロウリー(Dermot Crowley)、足の不自由な使用人を演じたフィリップ・ジャクソン(Philip Jackson)といった出演者でおわかりのように、イタリア語ではなく、英語で演じられます。
映像もきれいですし、物語が小気味よく展開して、気持ちよく楽しめる作品です。どなたかと映画を観に行こうというとき、安心して誘える一本だと思います。
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[仕入れ担当]