映画「蜘蛛の巣を払う女(The Girl in the Spider's Web)」

00 昨日に続いて、1作目を観たからには2作目も、と観に行った作品です。前作にあたるハリウッド・リメイク版「ドラゴン・タトゥーの女」のご紹介ブログにも記したように、スウェーデン制作のオリジナル版の映画もたいへん面白く、私はその3部作も全部みています。

一連の映画の原作となった小説「ミレニアムシリーズ」の著者スティーグ・ラーソン(Stieg Larsson)は3部作の刊行を待たず2004年に亡くなっていますので、2009年公開のオリジナル版、2011年公開のデヴィッド・フィンチャーが手がけたリメイク版も共に作者没後の作品です。本作「蜘蛛の巣を払う女」は、スティーグ・ラーソンの後を引き継いで小説を執筆しているダヴィド・ラーゲルクランツ(David Lagercrantz)の続編第1作の映画化ですので、小説でいうとシリーズの第4作目が原作ということになります。

原作者が後継者というだけでなく、監督も出演者も前作と入れ替えているところからみると、制作者側は007シリーズのような連作にしたいのかも知れません。原作と映画の関係も007シリーズに似ていて、小説の登場人物や設定の一部を使いながら、小説とはまったく異なる物語が展開します。

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大枠のあらすじは、天才科学者フランス・バルデルの研究成果が悪の組織に奪われ、それをミレニアム誌のミカエルと天才ハッカーのリスベットが取り返そうとする物語。

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悪の組織にリスベットの双子の妹カミラが絡んでいることも、プログラムの暗号を解く鍵がバルデルの息子アウグストにあることも小説と同じ。ハッカー出身のNSA(米国国家安全保障局)局員エドウィン・ニーダム(通称エド)と、スウェーデン公安警察のガブリエラ・グラーネが絡んでくるあたりも共通しています。

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しかし、バルデルのプログラムが、小説では画期的な人工知能ということで、悪の手に渡ったらどうなるかわからないという得体の知れない怖さがありましたが、映画では核兵器を外部から操作するプログラムという単純なアイデアに変わり、わかりやすくなった反面、古めかしさも否めません。またバルデルの息子アウグストも、小説ではサヴァン症候群ということで先の読めない奥深さがありましたが、映画では普通の子どもになっています。

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リスベットは少女時代の虐待がその後の人格形成に大きく影響している女性です。それを受けて小説では、アウグストがバルデルの離婚した妻ハンナの同棲相手から虐待されていて、誰もアウグストを守れないことに対する苛立ちが原動力になっています。

しかし、そういった繊細な事情を伝えるのは難しいと思ったのか、映画ではハンナの同棲相手の存在を丸ごと割愛。その代わり、虐待されている女性の前に突然リスベットが現れ、相手の金持ち男性を懲らしめるシーンを冒頭に挿入することで、彼女のキャラクターを説明しています。なかなかスタイリッシュな撮り方ですが、とってつけた感が無きにしも非ずです。

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つまり、物語を大幅に単純化した代わりに、小説にないアクションシーンをふんだんに詰め込んだ映画。そういう意味ではミッション:インポッシブル・シリーズに似ていると言えるかも知れません。

既にダヴィド・ラーゲルクランツの続編2作目(シリーズ5作目)の小説が刊行されていて、テーマのひとつがMISTRA(双子の研究)ということで、当然、リスベットとカミラの姉妹にも関係してきます。しかし、カミラとの対決はありませんので、姉妹の闘いはシリーズ6作目以降に持ち越されることになります。

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そのリスベットを演じたのは、いま売り出し中の英国女優クレア・フォイ(Claire Foy)。前作のルーニー・マーラのときも、小説のイメージに比べてきれい過ぎると思ったのですが、さらにきれいになっています。愛らしい表情と、過激なアクションのコントラストが魅力でしょう。

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対するカミラを演じたのは「鑑定士と顔のない依頼人」の依頼人役、「ブレードランナー 2049」のラヴ役だったシルヴィア・フークス(Sylvia Hoeks)。この映画では北欧の俳優を積極的にキャスティングしていますが彼女もオランダ人です。

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カミラの手下ヤンを演じたクレス・バング(Claes Bang)はデンマーク人。ぱっと見ではわかりませんが、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」で主人公のクリスティアンを演じていた俳優です。

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前作のダニエル・クレイグに代わってミカエルを演じたスベリル・グドナソン(Sverrir Gudnason)は「ストックホルムでワルツを」にも出ていたスウェーデン俳優。エドを演じたラキース・スタンフィールド(Lakeith Stanfield)は、近作「ゲット・アウト」での演技が印象的でしたが、「ストレイト・アウタ・コンプトン」にもスヌープドッグ役で出ており、また「ショート・ターム」でのマーカス役も記憶に残っています。

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そしてミカエルの同僚エリカを演じたのは「ファントム・スレッド」でアルマ役だったヴィッキー・クリープス(Vicky Krieps)。ルクセンブルグ出身なんですね。原作のイメージとは大きく違いますが、ミカエルを演じるスベリル・グドナソンとのバランスを考えると、彼女のような人が適役なのかも知れません。

公式サイト
蜘蛛の巣を払う女The Girl in the Spider’s Web

[仕入れ担当]