映画「ショート・ターム(Short Term 12)」

00 長編映画はこれが2作目という新人監督デスティン・クレットン(Destin Cretton)が手がけたヒューマンドラマです。

新人とはいえ、5年前に似た設定で短編映画を作り、それをリメイクするかたちで本作を撮ったそうで、細部までよく練られていて、荒削りな印象はありません。じわじわっと感動が拡がっていく味わい深い一本です。

物語の舞台は、青く澄んだ空が印象的なカルフォルニアの児童保護施設で、題名のShort Term 12はその施設名。家庭に問題があったり、心に闇を抱えた少年少女たちが暮らす施設です。

ブリー・ラーソン(Brie Larson)演じる主人公のグレイスと、ジョン・ギャラガー・Jr.(John Gallagher Jr.)演じるその恋人のメイソンは、共にこの施設で働く同僚で、日々、心に傷を負った子どもたちの面倒を見ています。

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施設にはさまざまな問題児がいて、日常的に小さなトラブルが起こります。サミーは脱走の常習犯で、黒人のマーカスとヒスパニックのルイスは互いにいがみあっています。18歳を迎えるマーカスは、もうすぐ施設を出ていかなくてはならず、その不安感が怒りに繋がっています。

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グレイスとメイソンの関係は順調のように見えますが、なぜか妊娠したことをメイソンに伝えないグレイス。善人を絵に描いたようなメイソンのどこに不満があるのだろうと思っていると、ジェイデンという自傷癖のある少女が短期入所してきたことで、実はグレイス自身、いまだに癒えない傷を負っていることが明らかになっていきます。

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そしてメイソン。どんなときでもグレイスを優しく包み込もうとする、陽気で冷静さを失わない姿からは、どこにも傷を負っていないように見えますが、実はそうではありません。

ちょっとネタバレになりますが、中盤、メイソンの養親の結婚30周年のパーティシーンがあって、そこでみんなが合唱するのが、Ay, ay, ay, ay, canta y no llores(アイ、アイ、アイ、アイ、歌って、泣かないで)と歌うシエリト・リンド(Cielito Lindo)。ご存じの方も多いかと思いますが、メキシコ移民が集まると歌う一種の国民歌です。

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どこかの施設で育ち、移民の家庭に迎えられ、不安な少年時代を過ごしてきたことがわかります。幸いだったことは、養親の愛情に恵まれたこと。そこで育まれた優しい心が、グレイスの心の闇を照らし、子どもたちを安心させるだけでなく、映画そのものの救いになっていきます。

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ミニシアターでしか上映されていない地味な作品ですが、監督のあたたかな視点、主人公の2人と子どもたちの演技は一見の価値ありです。わたしは、マーカスが自作したラップを歌うシーンでじーんときました。

公式サイト
ショート・タームShort Term 12

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[仕入れ担当]