先週末オープンしたTOHOシネマズ上野で観てきました。シネコンとしてはこぢんまりしていて、ラインナップにはあまり期待できないかも知れませんが、座席に段差があって観やすい劇場です。モナドのそばから都バスで7〜8分、歩いても20分程度ですので、ぜひ映画とセットでいらしてください。
ちなみにこの日はSCREEN 1という97席の小さなシアターで観たのですが、21:25上映開始という遅い時間にもかかわらず、ほぼ満席でした。銀座や有楽町と違って夕食後に賑わいそうな映画館です。1フロア下のレストラン街と直結していて、夜の時間が空いたときなど使い勝手が良さそうです。
さて、本作「ゲット・アウト」は米国の人気コメディアン、ジョーダン・ピール(Jordan Peele)が初めて監督したというサスペンス作品。それだけ聞くとスルーしてしまいそうですが、予告編の作りが良くて、何度も目にしているうちにだんだん興味が湧いてきて観に行くことに。これが期待以上の面白さで、懸念していたグロさもなく、満足度の高い1本でした。謎解きが見どころの作品ですので、ご家庭でもインフライトムービーでも十分に楽しめると思います。
物語のスタートは、夜の住宅街を1人で歩いていた黒人青年が、すれ違ったポルシェがUターンして戻ってきてこれはマズいパターンだと警戒しているうちに、後から襲われて拉致されてしまう場面。ロケ地はアラバマ州モービル市のライアン通り(map)だそうですが、ありふれた住宅が立ち並ぶ、一見、平和そうな街路です。それでも、黒人だというだけで攻撃の対象になり得るという米国南部の現実がさらっと示されます。
この黒人青年を演じているのはキース・スタンフィールド(Keith Stanfield)で、「ショート・ターム」のマーカス役、「グローリー/明日への行進」のジミー・リー・ジャクソン役、「ストレイト・アウタ・コンプトン」のスヌープ・ドッグ役だった人。主役ではありませんが、今回も重要な役ですので、この冒頭の短いシーンをよく見ておいた方が良いでしょう。
そして本作の主人公、ダニエル・カルーヤ(Daniel Kaluuya)演じる黒人男性クリスと、アリソン・ウィリアムズ(Allison Williams)演じる白人女性ローズの登場です。2人は4ヶ月前に交際し始めた恋人同士で、ローズの実家に行く準備をしている最中です。
クリスは、親友のロッドから、白人のガールフレンドの実家になど行くもんじゃない、と忠告されますが、ローズから「父はオバマに3選目があれば投票する人、レイシストではないから安心して」と言われて訪問を決めます。
親友ロッドの勤務先、TSAというのは米国の運輸保安庁(Transportation Security Administration)のこと。スーツケースの錠につけられた赤いマークでお馴染みの、9/11後に対テロを目的に設立された国土安全保障省の外局です。最初の会話で何となくわかると思いますが、主に空港警備を担っている組織で、警察ではありません。このあたりのことが後半の展開に関係してきます。
そして2人は郊外のアーミテージ家(ロケ地はボールドウィン郡フェアホープ)に向かうのですが、その途中、飛び出してきた鹿を跳ねてしまいます。運転していたのはローズですので、普通は彼女の過失ということになるでしょう。しかし現場検証に来た白人警官は、クリスの身分証を見せろと言ったり、黒人に対する偏見を隠そうとしません。日本人の目には嫌な感じに映りますが、クリスの対応は「よくあることだから気にしないでおこう」という慣れ切った様子です。
このように黒人蔑視の実情を見せて伏線を張った後に到着するアーミテージ家の一族はもちろん全員が白人。脳外科のローズの父、催眠療法を手がける精神科医の母が暮らしていて、医学生の弟が帰ってきます。
そして雇われている庭師と家政婦は黒人という、いかにも南部の白人家庭という感じですが、どうもこの2人の黒人が妙です。クリスが同じ黒人としてコミュニケーションを取ろうとすると、微妙な距離感を置くのです。
その違和感は、その翌日に行われたアーミテージ家のパーティでさらに深まります。来客のほとんどは白人で、しきりに黒人の身体能力の高さを褒めちぎり、タイガーウッズの素晴らしさを語ったりするのですが、その持ち上げ方がどことなく胡散臭いのです。そして数少ない黒人のゲスト。その男性にクリスが挨拶すると、これまた微妙な距離感を置こうとします。
そしてその曖昧な違和感が、具体的な姿を持ち始めるのですが、これ以上はネタバレになってしまうので書きません。
主な出演者としては、父親のディーンを演じたベテランのブラッドリー・ウィットフォード(Bradley Whitford)、弟のジェレミーを演じた「神様なんかくそくらえ」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(Caleb Landry Jones)、そして母親のミッシーを演じた「マルコヴィッチの穴」「カポーティ」「キャプテン・フィリップス」「はじまりのうた」などでお馴染みのキャサリン・キーナー(Catherine Keener)といったところでしょうか。
パーティのゲストに日本人がいて、この手の映画では珍しく華人ではなく日本人俳優が演じているのですが、ジョーダン・ピール監督(黒人です)がなぜ白人の中に日本人を混ぜたか、ちょっと気になるところです。
[仕入れ担当]