話題作ですね。全編ワンカットのように見える緊迫した映像で撮影監督のロジャー・ディーキンス(Roger Deakins)がアカデミー賞の撮影賞に、視覚効果スーパーバイザーのギョーム・ロシェロン(Guillaume Rocheron)が視覚効果賞に輝きました。臨場感が極めて重要ですので、大スクリーンでの鑑賞しかあり得ない作品です。私は日比谷のIMAXで観ましたが、できる限り良い環境でご覧になることをお勧めします。
監督は007シリーズでお馴染みのサム・メンデス(Sam Mendes)。「スペクター」の冒頭で繰り広げられる死者の日の長回しが記憶に新しいところですが、その前作「スカイフォール」ではロジャー・ディーキンスとタッグを組み、イスタンブールのバザールで激しいオートバイ・チェイスをみせていました。

映画のストーリーは、将軍から伝令を命じられた二人の若い兵士が、両軍の陣営の間に広がる中間地帯を抜け、前線に向けて走るというもの。監督が祖父から聞いた昔話を下敷きに、第一次世界大戦中の1917年にドイツ軍が行ったアルベリッヒ作戦を参照して脚本化したそうです。

話はシンプルですが、命がけの使命を果たそうとする不屈の精神に、ジョージ・マッケイ(George MacKay)演じるウィルと、ディーン=チャールズ・チャップマン(Dean-Charles Chapman)演じるトムの友情を絡めて、戦争の無情を描き上げる人間ドラマに仕上げています。

映画をよくご覧になっている方でしたら、「サンシャイン」「パレードへようこそ」「はじまりへの旅」と存在感を高めてきたジョージ・マッケイが大切な役割を果たすことが推察できてしまい、前線にトムの兄がいるという設定で展開が読めてしまうかも知れませんが、それでも退屈することなく最後まで楽しめると思います。

彼らを伝令に出すのは、コリン・ファース(Colin Firth)演じるエリンモア将軍。前線のデヴォンシャー連隊はドイツ軍を追撃すると伝えてきたが、敵軍の後退は罠であり、進軍すると1600名が全滅することになるので撤退するように伝えろと二人に命じます。
そして彼らは前線を目指すわけですが、中間地帯で出会うのが、マーク・ストロング(Mark Strong)演じるスミス大尉。彼が念押しする“その命令は必ず第三者がいる場所で伝えること。撤退したくない者もいるはずだ”は、戦争に対する監督または祖父の考えを顕すセリフでしょう。個人のつまらない蛮勇のせいで、大勢が犠牲になるのはいずこの国でも同じです。
そして伝達先であるデヴォンシャー連隊を率いるのはベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)演じるマッケンジー大佐。
同連隊にはトムの兄であるジョセフ・ブレイク中尉もいるわけですが、演じているのは「ロケットマン」でジョン・リードを演じていたリチャード・マッデン(Richard Madden)。彼らに会う直前に聴く”Poor Wayfaring Stranger”の響きが耳に残ります。

このように英国を代表する俳優を揃えているとはいえ、やはり見どころは映像の迫力でしょう。塹壕を駆け抜けるシーンや川に流されるシーンなど、一体どうやって撮ったのかと思えるような映像がふんだんに使われているだけでなく、彼らと一緒に戦場にいるような没入感もあります。ロジャー・ディーキンスは「ボーダーライン」や「ブレードランナー 2049」の撮影でも高く評価されていましたが、きっと本作がマスターピースとなるのではないでしょうか。

ということでハラハラ、ドキドキが続く作品です。集中して観るとぐったりしてしまうかも知れません。
公式サイト
1917 命をかけた伝令(1917)
[仕入れ担当]