英国TMAで2007年のベストミュージカルに選ばれた舞台の映画化です。監督を務めたデクスター・フレッチャー(Dexter Fletcher)は本作が2作目ですが、これまで俳優として「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」などで活躍してきた人。
舞台はエディンバラのリース(Leith)で、スコットランド色を強く打ち出した作品です。物語はリース出身の双子バンド、ザ・プロクレイマーズ(The Proclaimers)の往年のヒット曲をベースに展開し、原題も彼らのヒット曲のタイトルから。
楽曲優先で作られたミュージカルといっても、さすがに舞台で何度も上演されてきた作品だけあって、ストーリー展開はしっかりしています。ミュージカル嫌いでなければ、安心して楽しめる一本だと思います。
映画の序盤は、アフガニスタンの荒野を軍用車両で移動しているシーン。不穏な空気感に溢れていて、観る映画を間違ったかと不安になりますが、すぐにリースの街路に場面が移りますのでご安心を。
陽気に踊りながら歩いてくる二人の帰還兵はアリーとデイヴィー。実はもう一人、ロニーという仲間も従軍していたのですが、彼についてはその後の展開で明らかになります。
ちなみにこのシーンで、パブから出てくる眼鏡をかけた中年男性の二人組は、カメオ出演しているプロクレイマーズのチャーリー・レイドとクレイグ・レイド。他の通行人はみんな演技しているのに、突然、間の悪い感じで現れますので、すぐにわかると思います。
アリーは、デイヴィーの妹であるリズと恋人同士。ですから二人は、まずデイヴィーの実家に行きます。デイヴィーの両親、ロブとジーンは結婚25周年を目前に控えた仲良し夫婦で、リズは地元の病院で働く看護婦。
その後、デイヴィーは妹のリズから同僚のイヴォンヌを紹介され、二人は交際するようになります。そして、結婚25年のロブとジーン、以前から恋人同士だったアリーとリズ、出会ったばかりのデイヴィーとイヴォンヌという3組のカップルを軸に物語が展開していくことになります。
ちょっと内容を明かしてしまうと、ロブとジーンは過去の出来事で信頼関係が揺らぎ、アリーとリズは将来に向けた意識のズレが表面化、デイヴィーとイヴォンヌは家族や地元への思いとの狭間で悩むといった具合。これに男同士の友情や家族愛を絡めながら、プロクレイマーズの楽曲にのせて小気味よく物語が進んでいくわけです。
基本的に明るく楽しい映画ですが、もう一つの特長は、重くならないように配慮しながら社会問題を巧みに織り込んでいるところ。たとえばアリーとデイヴィーは、おそらく正規の軍人としてではなく、ケン・ローチ監督が「ルート・アイリシュ」で描いたような民間兵として従軍しています。
港湾労働者として働いていた夫のロブはリタイアして主夫であり、公立美術館の職員である妻のジーンは今も勤めています。帰還したデイヴィーには電話セールスの仕事しかないのに、リズやイヴォンヌは看護婦としてキャリアアップを考えています。つまり、公共的な仕事以外にまともな仕事がないという地方の問題が根底にあり、だからこそ従軍という選択になるわけです。
また、姉の家に居候することになったアリーに、姉の息子が「誰か撃った?」と尋ねるあたりや、あまり登場しないロニー役に本作の若手俳優では最も実績があるポール・ブラニガン(Paul Brannigan)を配して意味深なセリフを語らせたり、随所に監督や製作者の意識が透けて見えます。
そういえばポール・ブラニガンが主演したケン・ローチ監督「天使の分け前」もスコットランドを強く打ち出した作品で、本作と同様、プロクレイマーズの"I’m Gonna Be (500 Miles)"が象徴的に使われてましたね。
なお、主なキャストとしては、ロブ役で「思秋期」のピーター・ミュラン(Peter Mullan)、ジーン役で「リトル・ヴォイス」のジェーン・ホロックス(Jane Horrocks)、ジーンが勤める美術館の上司役で「ハンナ」に少し出ていたジェイソン・フレミングが出ています。
ということで、気軽に楽しむこともできれば、シニカルな視点を味わうこともできる、思いのほか深いミュージカルです。もちろん、エディンバラの歴史ある市街地も、リースの味のある風景も楽しむことができます。
私は学生時代にエディンバラ・フェスティバルへ行って以来、スコットランドを旅していませんが、この映画を観て、またゆっくり訪ねてみたいと思いました。9月18日の住民投票も気になるところですね。
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