とうとうこの5月で閉館してしまう銀座テアトルシネマ。そのクロージング作品として選ばれたケン・ローチ監督(Ken Loach)の最新作で、2012年のカンヌ映画祭では審査員賞を受賞している映画です。
ケン・ローチ監督の作品には、前作「ルート・アイリッシュ」のような戦争に振り回される市井の人々を描いていくものと、「エリックを探して」のような懸命に生きる庶民を励ますものがありますが、この「天使の分け前」は後者の部類で、ほのぼのとした気分になれるコメディタッチのドラマです。
まず冒頭の法廷シーン。暴力事件で前科のあるロビーが、ケンカでまたもや刑務所に送られそうになりますが、ガールフレンドのレオニーが妊娠しており、父親としての責任を果たすということで情状酌量を得て社会奉仕活動を命じられます。彼を引き受けるのが、ウィスキー好きの気の好い中年、ハリー。
レオニーが陣痛で病院に運ばれ、奉仕活動中だったロビーはハリーに付き添われて駆けつけますが、彼との関係を疎むレオニーの親類から暴力を振るわれ、出産に立ち会わせてもらえません。憤るロビーを、仕返しすればまた刑務所送りだとなだめるハリー。住むところのないロビーを自宅に連れ帰り、ロビーの息子の誕生を秘蔵のスコッチウィスキーで祝います。
その後ロビーは、ハリーに連れられて社会奉仕活動の仲間と訪れたウィスキー蒸溜所でスコッチに興味を持ち、そこで仲間がくすねてきたスコッチで味を覚え、別の試飲会で利き酒の能力を発揮します。そこで出会うのが、ウィスキーコレクターのタデウス。また仲間が持ち出した書類から、希少ウィスキー、モルト・ミルのオークションがバルブレア蒸溜所で開催されることを知ります。
そこでロビーは、樽からモルト・ミルを少し抜き取ってタデウスに売りつける計画を練ります。オークション会場に潜り込むため、社会奉仕活動の仲間3人と一緒に北ハイランドに向かうロビー。そこからドタバタが繰り広げられ、最終的にハッピーエンドを迎えます。
次に捕まったら10年は出られないと言われながら、樽から希少ウィスキーを抜き取って別のウィスキーで補填しておくのも、言ってみれば犯罪ですが、100万ポンド以上の大枚をはたいて落札したコネティカットの金持ちが試飲して満足してるので、それはそれで良いではないか、と言うことなのでしょう。
このように味音痴の米国人をバカにしたり、オークション入札者の資金源がロシア人だったり、いたるところで英国っぽい皮肉を利かせ、笑いをとりながら、ハリーというメンターを得たロビーが、不良少年から脱皮していく過程が描かれていきます。
また、オークション会場に相応しい服を持っていない4人が、それをごまかすためにキルトを着たり、ウィスキーをくすねる容器にスコットランドの炭酸飲料、Irn Bruのガラス瓶を使ったり、終始一貫してスコットランド・ラブなのも、この映画の特徴です。
北ハイランドに向かうシーンと、エンディングで使われている音楽(テーマ曲?)も、ザ・プロクレイマーズの"I’m Gonna Be (500 Miles)"といった具合。
※この曲については「サンシャイン/歌声が響く街」をご参照ください。
テイスティングするロリー・マカリスターを演じている人は、チャールズ・マクリーン(Charles Maclean)という実際のスコッチウイスキーの権威だそうですし、蒸留所の案内シーンもスコットランド観光に貢献していそうで、一種のご当地ものとして観るのも一興かも知れません。いずれにしても、難しいことを考えずに、気軽に楽しめる映画です。
なお、銀座テアトルシネマでは5月11日(土)から《さよなら興行》(PDF)として過去の名作の再上映が始まりますが、終盤の5月25日(土)には、ケン・ローチ監督ナイトとして「この自由な世界で」「麦の穂をゆらす風」「ルート・アイリッシュ」がオールナイト上映されます。どれも重い内容の作品ですので、3本続けて観るとしばらく考え込んでしまいそうですが、コアな映画ファンの多い銀座テアトルシネマならではの企画だと思います。
公式サイト
天使の分け前(The Angels’ Share)
[仕入れ担当]