007シリーズが映画化されて50年目ということで、ロンドンオリンピックで女王陛下まで登場して前宣伝(?)していた話題作です。制作会社MGMの資金繰りの関係で、一時は完成が危ぶまれていたようですが、公開後、世界的にヒットしているようですね。私が観に行った映画館も、大箱ながら超満員でした。
今回の監督はサム・メンデス(Sam Mendes)。これまで「アメリカン・ビューティー」のような社会派映画を撮ってきた監督ですから、どう仕上げるのか興味津々でしたが、アクションシーンをふんだんに盛り込んだスリリングな展開で、007シリーズの王道を行った感じでした。
オープニングは、007シリーズでは3度目の登場というトルコのイスタンブール。バザールを蹴散らしての市街地カーチェイスに続いて、建物の屋根から屋根へとバイクで飛び移っていく追跡シーン。そして疾走する列車上での格闘へと展開し、最初から息継ぐ暇もありません。
味方の銃弾を受けて鉄橋から転落してしまう007ですが、死んだかと思いきや、なぜかカリスビーチ(Calis Beach)のバーで飲んだくれています。
MI6の危機をニュースで知って職務に復帰し、上海に飛んでガラス張りの高層ビルでひと暴れしたかと思えば、マカオの水上カジノで、上海で見かけた中華系の美女セヴリンと再会。カジノのバーテンダーが、ちゃんとマティーニをシェイクして出して観客の笑いをとってました。
ちなみに、上海のシーンでチラッと見えるモディリアーニの絵画は、2010年5月20日にパリ市立近代美術館(Musée d’Art Moderne de la Ville de Paris)から盗まれた"Woman with a Fan (Lunia Czechowska)"だそう。こういう小ネタが利いているのも007シリーズらしさですよね。
ここまででも既に見どころ十分ですが、まだまだ序盤です。その後、セヴリンに導かれ、マカオ沖合にある軍艦島のような廃虚の島で今回の悪役、シルヴァに会ってから本物の対決が始まります。
そのシルヴァを演じるのがハビエル・バルデム (Javier Bardem)。アカデミー賞を獲った「ノーカントリー」の演技も、かなり不気味でしたが、今回もそれに負けず劣らず薄気味悪いキャラクターです。金髪のカットは妙だし、服の趣味は最悪だし、得体の知れない薄笑いの似合うこと。ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)演じる、スタイリッシュなジェームズ・ボンドの対極にある感じです。
それにしてもダニエル・クレイグ、トムフォードのスーツがよく似合ってますよね。やっぱり良い男が良いスーツを着ているのは、観ていて気持ちが良いものです。
それはともかく、ダニエル・クレイグとハビエル・バルデムの組合せは絶妙です。この配役だけで勧善懲悪の物語作りが完成している感じ。それに加え、アストンマーチンDB5やワルサーPPKといった昔ながらの007アイテムが随所にちりばめられていたり、過去のシリーズに引っ掛けたやりとりがあったり、50周年記念としての配慮も怠りません。
たとえば、秘密兵器担当のQと、ナショナルギャラリーのターナーの絵の前で会うシーン。作戦用の武器としてワルサーの拳銃を渡されて不満そうなボンドに対し、ナード感バリバリのQは「ペン型爆弾とか欲しいんですか? もう、そういうのはやらないんですけど(What did you expect, an exploding pen? We don’t really do that anymore.)」と全否定。時代はスパイツールでの戦いから、サイバー空間での戦いに移ったというわけです。そのQを演じるのは、「パフューム ある人殺しの物語」主演の他、「テンペスト」にも出ていた演技派、ベン・ウィショー(Ben Whishaw)。
そして、007映画のお約束でもある世界の名所巡り。今回はこのシリーズ初の中国ロケということで、近未来的な上海の夜景を空撮するなどダイナミックな映像がふんだんに使われています。
終盤は英国に戻り、ジェームズ・ボンドの故郷とされるスカイフォールで対決となります。このスコットランド特有の寒々しい景色が、なんとも良い感じです。
ところでジェームズ・ボンドってスコットランド人だったんですね。初代ボンド役のショーン・コネリー(Sean Connery)は、よくキルトをはいてスコットランドをアピールしていましたが、ジェームズ・ボンドのルーツについては初めて知りました。
ということで、2時間を超える長い作品ですが、一瞬も退屈することなく、一気に観てしまえる映画です。私は007映画についてあまり詳しくないので、細かいことは分りませんが、長年のファンには堪らない仕掛けも盛り沢山のようです。
なお、この作品を最後に、上司のMがジュディ・デンチ(Judi Dench)からレイフ・ファインズ(Ralph Fiennes)に交代しますので、女性のMはこれで見納めかも知れません。
公式サイト
007 スカイフォール(Skyfall)facebook
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