映画「ふたりの女王 メアリーとエリザベス(Mary Queen of Scots)」

00 16世紀英国を舞台に、スコットランド女王メアリーとイングランド女王エリザベスⅠ世の関係を描いていく作品です。主役メアリーを演じたのは「ブルックリン」「レディ・バード」「追想」のシアーシャ・ローナン(Saoirse Ronan)。数年前「ハンナ」で演じていた“不思議ちゃんキャラ”の記憶が霞むほど、演技派としての地歩をしっかり固めてきた印象です。

対するエリザベスⅠ世を演じたのはマーゴット・ロビー(Margot Robbie)。「アイ、トーニャ」での演技が高く評価され、アカデミー賞にもノミネートされましたが、それ以前は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で演じた成金の妻など紋切り型の美人役がお似合いだった彼女、いよいよ歴史物のコスプレまで演技の幅を拡げてきました。

この成長著しい二人を軸に、周りを「ベロニカとの記憶」「女王陛下のお気に入り」のジョー・アルウィン(Joe Alwyn)や「英国王のスピーチ」のガイ・ピアース(Guy Pearce)といった英国俳優で固めるだけでなく、「クレイジー・リッチ!」でアストリッド役だったアジア系女優ジェンマ・チャン(Gemma Chan)や、「JIMI: 栄光への軌跡」に出ていた黒人男優エイドリアン・レスター(Adrian Lester)といった非白人までキャスティングした意欲作です。監督のジョージー・ルーク(Josie Rourke)は長く舞台監督を務めてきた女性だそうで、本作が初の映画作品となるようです。

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シアーシャ・ローナンが演じたメアリー・スチュアート(Mary Stuart)は生後すぐに父親のジェームズⅤ世が亡くなり、長男と次男が亡くなっていたため、生後6日でスコットランド女王となった人。イングランドの王位継承に関する内紛に巻き込まれそうになり、5歳のときに母メアリ・オブ・ギーズの母国であるフランスに渡って育ちました。結婚したフランソワⅡ世が王位に就いてフランス王妃となりますが、相手が16歳で夭逝したことからスコットランドに帰国することになります。

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映画はこの場面からスタート、小舟で海岸に着いたメアリーが上陸し、城で異母兄のマリ伯が彼女を迎え入れます。

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時は1561年。カトリックの女王誕生ということになりますが、イングランドではプロテスタントが主流をなしており、スコットランドでもプロテスタントへの改宗が進んでマリ伯もプロテスタントでした。メアリーは異母兄マリ伯を顧問として重用しつつも、プロテスタント勢力と反目しながらスコットランドを統治することになります。

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プロテスタント勢力曰く、カトリックはローマ教皇を頂点とする組織であり、女王メアリーがカトリックであるということは、スコットランドがローマに従属することになるのでダメだそう。わかるような、わからないような理屈ですが、所詮、内輪の権力闘争ですから、何となく筋が通っていそうなら細かいことはどうでも良いのでしょう。

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さらに、メアリーは自分こそが正統なイングランド王位継承権者だと表明していますので、エリザベスⅠ世を女王に頂くイングランドとも対立します。まさに内憂外患ですが、戦争も辞さず、また自らと同じ血統のダーンリー卿ヘンリー・スチュアートと結婚して子どもをもうけるといった王位継承権の強化も図ります。

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しかしその課程では、寵愛していたピエモンテ人の音楽家デイヴィッド・リッチオが目の前で殺害されるという悲劇が起き、さらに関係が冷え切っていたヘンリーが暗殺されるという謀略もあり、メアリーに対する包囲網がみるみる狭まっていくことになります。

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こういったスコットランドの内紛に際し、陰で糸を引いていたのがイングランドであり、エリザベスⅠ世だったとされているわけですが、この映画では陰湿な足の引っ張り合いより、たとえば生涯未婚だったエリザベスⅠ世と、3回も結婚して子どもも産んでいるメアリーといった違いに光を当て、互いに羨望と反駁がないまぜになっていたという基調で描いていきます。

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このような血なまぐさい歴史物語を、シアーシャ・ローナンとマーゴット・ロビーの個性をぶつけて見せていく映画ですが、女性監督ならではというのでしょうか、たとえばメアリーを血の赤で、エリザベスⅠ世をバラの赤で対照させるところなど、女性的な生々しさをうまく活かして描いていたと思います。

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それに加えて、やはり二人の女優が良いですね。何年もかけて準備したというだけあって、共に最大限の力を発揮して演じていたと思います。二人の演技を観るだけでも一見の価値ありの映画です。

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公式サイト
ふたりの女王 メアリーとエリザベスMary Queen of Scots

[仕入れ担当]