映画「胸騒ぎのシチリア(A Bigger Splash)」

00ミラノ、愛に生きる」のルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)監督が、前作に続いてティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)を主演に撮った新作です。彼女の衣装も前作同様(というか当時はジルサンダーのデザイナーでしたが今はディオールの)ラフ・シモンズ(Raf Simons)が手がけているお洒落な作品です。

1969年のフランス映画「太陽が知っている」のリメイクだそうで、私は観ていませんが、オリジナル版では別荘に滞在しているカップルをアラン・ドロンとロミーシュナイダー、訪ねてくる父娘をモーリス・ロネとジェーン・バーキンが演じたようです。

オリジナル版の舞台は南仏のサントロペということで本作とは違いますが、そのレビューに“水死体は浮いてくるはず”という突っ込みもあって、どうやらディテイルはかなり似ているようです。ちなみにモーリス・ロネは頻繁にアラン・ドロンと共演していた当時の人気俳優、またジェーン・バーキンにとって初めてのフランス映画だったそうです。

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本作の原題 Bigger Splash は、デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)の同名絵画(こちら)に触発されて決めたそう。飛び板のあるプールに水しぶきが上がっている有名な作品ですね。映画の冒頭で、訪ねてきた父娘が“プールがあればいい”といった発言をしますが、オリジナル版「太陽が知っている」の原題も“La piscine”(仏語でプール)ですし、プールが要になる作品だと一貫して示しているように思います。

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主な登場人物は、シチリアのパンテッレリーア島(Isola di Pantelleria)に滞在しているカップル、マリアンとポール、そこに訪ねてくる父娘、ハリーとペネロペ(愛称はペン)の4人で、マリアンをティルダ・スウィントン、ポールを「君と歩く世界」「リリーのすべて」のマティアス・スーナールツ(Matthias Schoenaerts)、ハリーを「グランド・ブダペスト・ホテル」「007 スペクター」「ヘイル、シーザー!」のレイフ・ファインズ(Ralph Fiennes)、ペンを「ブラック・スキャンダル」で愛人役だったダコタ・ジョンソン(Dakota Johnson)が演じています。ティルダ・スウィントンとレイフ・ファインズは「グランド・ブダペスト・ホテル」と「ヘイル、シーザー!」でも共演してましたね。

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マリアンは一世を風靡したロッカー。ミラノのスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ(San Siro)で撮影された往年のコンサートシーンを見ると、クリッシー・ハインドのようなミュージシャンだったという設定のようです。喉を痛めて手術し、現在はそのリハビリでシチリアに滞在しています。

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そのパートナーであるポールはドキュメンタリー映画作家。しかし自分の作品は未だ撮れていません。実際のところ、他人の作品の手伝いを除けば、マリアンの世話が仕事という状態です。

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そこに訪ねてくるハリーは音楽プロデューサーで、マリアンの元カレ。ローリング・ストーンズの Moon Is Up の録音に立ち会ったときのエピソードを語ったりしますので、かなりやり手のプロデューサーだったことが伝わってきます。そして彼が連れてきた若い娘が、昨年、自分の娘だとわかったというペン。

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つまり、魅力溢れる中年女性マリアンと、現在のパートナーであるポール、過去のパートナーであるハリーが微妙なバランスで交流することになります。

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それをさらにややこしくするのが若くて奔放なペン。ポールはマリアンよりかなり年下ですから、ペンが好奇心を抱いても不思議ではありません。その上、ハリーとペンがインセスト・タブーを匂わせたり、ポールとハリーの間には兄弟っぽい過去の友情があったり、なかなか複雑です。

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また、ポールに依存症の過去があったり、彼らが滞在している島が移民問題を抱えていたり、現代社会の難しい部分を背景に置いていて、陽光あふれるシチリアという単純な枠組みに収めないところがこの監督らしさでしょう。登場人物の抱える欠落感が、他者と接することで顕わになっていく展開もこの監督の持ち味のような気がしますが、これについては見る側の経験と感性に依存しそうです。そういう意味で子ども向きの映画ではありません。

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もちろん、この映画の一番の見どころは主人公を演じたティルダ・スウィントンの佇まい。

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美しい南欧の風景をバックに、ラフ・シモンズの衣装を颯爽と着こなします。彼女の存在感だけで十分に元は取れると思います。

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それを支える美しい映像も見どころの1つでしょう。撮影監督は「ミラノ、愛に生きる」のほか、ティルダ・スウィントン主演の「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」も手がけたヨリック・ルソー(Yorick Le Saux)。アサイヤス監督の「アクトレス」や「カルロス」、オゾン監督の「スイミング・プール」を撮っているといえば傾向がわかると思います。

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そしてもう一つの見どころは、レイフ・ファインズのダンス。その昔、文芸作品に出ていた頃とはうって変わり、このところハジけた演技を見せてくれる彼ですが、本作のダンスシーンはなかなかのものだと思います。また、やたらと全裸になるあたりもハジけた部分かも知れません。登場人物の中で彼だけボカシが入ります。彼が踊り狂う Emotional Rescue をはじめ、ローリング・ストーンズからさまざまなサポートを得ているそうです。

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