こういう映画を観ると、たまにはハードな旅をしたいなぁという気分になりますね。1970年代に愛犬と4頭のラクダを連れてオーストラリアの砂漠を徒歩で横断したロビン・デヴィッドソン(Robyn Davidson)の手記をベースにした映画です。
オセアニア中央部のアリス・スプリングス(Alice Springs)からスタートし、ウルル(Uluru:エアーズロック)を経由してインド洋へ至る1700マイル(約2700キロ)を約9ヶ月かけて踏破するのですが、なんといっても景色の美しさに圧倒されます。そして旅する女性の勇気に高揚し、苦悩に共感します。
といっても特にドラマティックなことが起こるわけではありません。ロビン・デヴィッドソン本人も当初は純粋に旅することが目的だったそうで、本作もドキュメンタリー映画のような感覚で、孤独に耐えながら旅を続ける一人の女性を追い続けます。
主人公のロビンを演じたのは、オーストラリア出身のミア・ワシコウスカ(Mia Wasikowska)。このブログでも「アリス・イン・ワンダーランド」「キッズ・オールライト」「永遠の僕たち」「ジェーン・エア」「アルバート氏の人生」「イノセント・ガーデン」「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」といった作品で、美少女から演技派に成長を遂げてきた彼女の軌跡を辿れますが、今回の体当たり演技でまた一つ殻を打ち破ったのではないでしょうか。
ロビン・デヴィッドソンの旅は、ナショナル ジオグラフィック誌(1978年5月号)に掲載されて注目を集めます。彼女の行程に3ヶ所で合流し、写真を撮ってエッセイを書いたのが、フォトグラファーのリック・スモーラン(Rick Smolan)。出会った経緯は映画とは違うようですが(詳細はこのnationalgeographic.comの記事にあります)、最初は毛嫌いしていたものの次第に打ち解けていったという流れは同じようです。
そのリック・スモーランを演じたのが、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」「フランシス・ハ」のアダム・ドライバー(Adam Driver)。本人に似せているだけでなく、なかなかバランスの良い演技だと思いました。
監督のジョン・カラン(John Curran)も脚本のマリオン・ネルソン(Marion Nelson)もほとんど無名ですが、撮影監督のマンディ・ウォーカー(Mandy Walker)はビリー・レイ監督やバズ・ラーマン監督と仕事をしているベテラン。この映画の最も大切な脇役はオーストラリアの大自然ですから、何よりも映像美が重要で、彼女はその重責を十分に果たしていると思いました。35ミリのフィルムで撮ったという映像は、リック・スモーランが撮った一連の写真(このDaily Mailの記事で一覧できます)に劣らない美しさです。
ついでながら、原作のロビン・デヴィッドソンもなかなか興味深い人物です。彼女はこの旅を終えた2年後、映画の原題と同名の手記を発表するのですが、それを書くためにロンドンに移り、何とドリス・レッシングと一緒に暮らしているのです。映画「美しい絵の崩壊」のときも記しましたが、後にノーベル文学賞を獲ることになる作家です。
そしてその後、1980年代中盤には、「パタゴニア」の作家ブルース・チャトウィンの紹介で知り合ったサルマン・ラシュディと交際していたようです。ちょうど「真夜中の子供たち」でブッカー賞を受賞して注目を集めていた頃のラシュディですが、87年に最初の妻と離婚した後、88年に米国人作家と再婚していますので、要するに不倫だったわけです。好奇心旺盛というか、根っからの冒険家なのでしょうね。
私は映画を観た後、ネットで検索してこういった事実を知りましたが、予め原作者の人となりを知って映画を観ると、また別の面白さがありそうです。
公式サイト
奇跡の2000マイル(Tracks)
[仕入れ担当]